「でもお兄ちゃんに任せれば大丈夫って思われてるってことじゃない? ほんとはさ、お兄ちゃん怪我した時、慌てて会社に押しかけたら、それこそ俳優さんとかいろんな人が心配して集まってて、こんなにお兄ちゃん慕われてるんだって思ったらさ、脳震盪だってわかったし、だから私が出る幕なかったなって思って帰ったんだ」
亜弓がそんな風に思っていたのかと、良太はあらためてしっかり者の妹を見つめた。
「まあ、沢村は別だけど」
顔を顰める亜弓に、ハハハと良太は笑う。
「あいつも今は、俺の関わってる番組にだけは出てくれるし、色々あるんだよ」
「フーン? けど社員さんも所属の俳優さんも、何かみんないい人たちだね」
「うーん、会社自体小さいし、社員も少ないから、文字通りアットホームだけど、その代わり、それぞれが自分の仕事しないとやってけないって会社だからな。慰労会もさ、忙しさにかまけてうちの社長今まで何にもやってこなかったっていうから、やるべきだって思ってさ」
それぞれの家族に挨拶した方がいいと言った時の工藤の渋い顔を思い出して苦笑する。
「ほんとはどこか旅行とか行けたらよかったんだけど、俳優さんたちスケジュールがあるからなかなか難しくて、今回はこういう形になったんだ」
「みんな喜んでるよ。いいんじゃない? どんな形でも」
「そう言ってくれると助かる。じゃ、ご飯、なるべく合流するようにするから」
良太はドアに手をかけた。
「お兄ちゃんが付き合ってる人って、工藤さん?」
良太は動きを止めた。
「はじめはお兄ちゃんのこと、借金肩代わりしてるのをいいことにこき使ってるんじゃないかって、怖い顔して、ワンマンなだけの人じゃないかって思ってたけど、違うってわかった。ことと次第によっては、私は認めてあげてもいいと思ってる」
しばし良太は亜弓を見つめた。
だが、そうだとも否とも答えることができず、少し笑みを浮かべてドアを開けた。
まだ両親は買い物に出かけたまま帰っていなかった。
ネクタイを緩め、タブレットをリュックから取り出すと、リビングのテーブルに開いてしばらくキーボードを叩いてから、ポットで湯を沸かし、コーヒーを入れた。
ようやく一息ついた良太は、亜弓の言葉をあらためて反芻した。
仕事のことを何となく認めてくれたのは良太としても嬉しかったのだ。
だが、工藤のことに関しては正直驚いた。
どうしてわかったんだろうと思う。
そんなに俺、顔に出てたんだろうか?
本当は何か秘密を抱えるとか、良太のガラではないし、ただ嘘もつけない。
だが、沢村と佐々木のことで、昨年暮れすったもんだあった時、言わない方がいいこともあるのだと、良太も悟った。
ただしそれは沢村の家族、父親らに対してだけのことだったようだ。
何せ、年明けの大和屋のイベントの時、沢村が爆弾発言をした。
しかも軽く。
「ついでに佐々木さんとの付き合いを申し込んだ」
あの、怖そうな佐々木の母親にだ。
さらに、沢村の母親にはもうとっくにバレていたようだ。
付き合っている相手なら、家族に紹介できればと思う。
付き合っている相手なら。
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