西高東低11

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「覚えていていただいて光栄です! あの、これ、お兄ちゃんを合格させてくださったお礼です!」
 両手で可愛いラッピングのチョコレートを掲げるように美沙に差し出され、佑人は受け取らないわけにはいかなかった。
「いや、合格したのは東山だから。でも、ありがとう、わざわざ」
「いえ、ほんとにありがとうございました!」
 九〇度ほども頭を下げてお辞儀をしたかと思うと、美沙は慌てて走り去った。
「お兄ちゃんを合格させてくれたお礼とは、言いようもあったよな、佑人くん、モテモテ」
 坂本がニヤニヤ笑いながら力を見ると、苦々しそうな顔で力はそんな坂本を睨み付ける。
「大学も合格したことだし、せっかくだから、力と内田はよりを戻して、佑人は東山の妹とデキちゃえば?」
 尚も揶揄する坂本には言葉も返そうとせず、力は佑人の手を掴むとそのままたったか教室を出る。
「え、ちょ、力!」
 佑人は慌てた。
「おい、力、合格したんならいい加減どこ受けたのか、教えたっていいだろ? 親友を仇やおろそかにするんじゃねぇぞ、おい、こら!」
 力に引きずられるようにして佑人が出て行く後ろから坂本が声を張り上げたが、返事はやはり返ってこなかった。
「獣医学部だってよ、力のやつ」
 帰り支度をした甲本がボソリと言った。
「じゅういがくぶぅ?!」
 甲本を振り返った東山と坂本が見事にハモる。
「さっき加藤に報告してた。Y大とS大獣医学部受かったとか」
「あんのやろう、んなことひとっことも! おい、東、ここまでコケにされて俺ら黙ってられるかって」
「だぜ!」
 拳を握る東山の横をすり抜けて、「じゃな」とバーバリーのコートにこじゃれたマフラーを巻きつけ、いかにもいいとこのボンといった風体で甲本が教室を出る。
「あのやろうも、見事にいい子ぶりっ子しやがって」
「あ、甲本?」
 東山が訝し気に聞いた。
「あいつも一中でさ、表の甲本、裏の山本っていや、泣く子も黙る……」
「え、あいつ? その甲本? ウッソ!」
 思い通りに驚いてくれる東山に坂本は満足して腕組みをする。
「ったく、人は見かけによらないって、このことだよな」
 甲本が聞いたら、お前が言うな、と返されそうなことをほざいて坂本はうなずいた。
 だが、坂本が力に声を張り上げたのが、力が佑人の手を握りしめて出て行ったことを有耶無耶にしようとするためだとは、お蔭で誰も知る由もなかった。
「いくらあとちょっとで卒業だっつっても、てめぇはいいとして、もちっと佑人のことも考えろよ」
「え?」
「いや、マック寄ってく? おごるぜ、合格祝い」
 ブツクサ呟いた後で坂本は陽気そうに笑う。
「やった! って坂本でマックって、何か侘しい気が……」
「この坂本くんがお祝いしてやろうってんだ、ありがたいと思え」
 パコンと頭をはたかれた東山は、「あ、待てよ!」とあたふたとコートを掴んだ。
 

 ドアを開けるなり、タローが出迎えた。
 タローはいつも力の足音を聞きつけてドアの前で待っている。
 力の部屋を佑人が訪れるのは一カ月ぶりくらいになるだろうか。
「タロー」
 思わずかがんでタローを撫でてやろうとした佑人だが、その腕をぐいと引っ張りあげられたかと思うと、いきなり力に唇を奪われた。
 噛みつくように乱暴な口づけは次第に激しくなり、佑人は息苦しくて力のコートの胸の辺りを必死で掴む。
 息苦しさだけでなく、力からひどく生々しさを感じ取り、佑人の身体は少し怯えて、それを押さえつけようと佑人の指に力が入る。

 


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