事実ではあったけど、多分郁磨が想像するような相手ではない。
「友達の合格祝いだよ、力とか、……東山とか」
佑人はとってつけた東山には、心の中で詫びを入れた。
それに力へのプレゼントは持ってきたものの、どちらかというと合格祝いに重きを置いている。
八時の約束まであと十分あった。
ドアが開いて佑人が力かと振り返ると、「よう!」と声をかけてきたのは坂本で、後ろから東山が続いて入ってきた。
「お、成瀬! 何、まさか彼女と待ち合わせとか?」
「え、いや、彼女じゃない、力とだけど……」
当然のように坂本は佑人の隣に陣取り、東山はその向かいに腰を下ろす。
「マックでうだついて、ファミレスで飯食って、合格祝いの締めにここ」
坂本が軽く説明する。
「力のヤツ、まだ? あ、練、俺、コーヒー、東は? 何でもいいぞ、今日は合格祝いだからな。何なら、バレンタインメニューにするか?」
坂本はニヤニヤと笑う。
「侘しいことさせんなよ。俺も、すんません、コーヒーお願いします」
そこは坂本より常識がある東山が恐縮して言った。
「ケーキつけろよ、バレンタイン特製……」
「だーから、いいっての。でもじゃ、やっぱ力のやつ、内田には会わなかったわけ? かっわいそ、内田、結構真剣だったぜ」
東山の言葉は佑人の胸にチクリと刺さる。
「しゃあないだろ」
坂本はさらりと返す。
「いくら何でもありゃ、女を敵にまわすぞ、冷酷でひでぇやつって。会って返事するだけだろ? 会ったら付き合うっつってんじゃねぇんだしよ」
佑人もそれは東山の言うように思ったのだ。
きっちり会って伝えるべきではと。
「いんだよ、もし返事するだけでも会ってみろ、ひょっとしていつかは、とか、女に期待持たせるかもしんねぇじゃん。ヒデェヤツとか言われようが何と思われようが、ウソがつけねぇ力には、女に会うとかあり得ねぇ選択なんだよ」
もっともらしく坂本が言った。
「まあ、そういうのもわからないでもないけどな」
今度は東山も頷いた。
「内田のことだ、理由を聞かせてとか誰か好きな人がいるのとか言われたら、力のヤツ、めんどくさがって、ホントのこと口にしちまうぞ。まあ、寄れば食う、誘われれば寝る、って、本能に忠実なヤツだからな、実際」
思わず佑人は坂本を見た。
あり得なくはないことのように思えて、佑人は心の中で納得する。
「え、何だよ、ホントのことって、力、好きなヤツいるのかよ? つきあってんのか?」
東山が坂本に詰め寄った。
「まあな」
「え、誰だよ? 俺の知ってるやつ? 同じガッコ?」
「まあな」
「もったいぶってねぇで、教えろよ」
東山の質問を坂本が適当にいなしていたところへ、力がやってきた。
「おう、力!」
東山と坂本の顔を見た途端、力はムッとした顔でソファにどっかと座る。
「てめぇら、何なんだよ」
「東山の合格祝いやってんだよ。あ、ついでにお前の合格祝いもやってやっていいぞ? で、どこの大学で獣医になるんだって?」
あからさまに機嫌の悪そうな顔を力は向ける。
「S大だよ」
むっつりと口を開かない力に代わって、佑人が答えた。
「S大っつうと、こっからすぐじゃん。いいとこ入ったな、お前」
それからしばらく卒業旅行の話などで、主に力以外が盛り上がり、九時を過ぎるとそのうちにいくつかのカップルが帰り、常連客もまばらになった。
back next top Novels
