西高東低14

back  next  top  Novels


「俺の頭と英語のこと考えると、もし仮になんとかなったとしてもすんげく先になるだろうし、アメリカに逃げるようなマネもいやだった。そしたらさ、河喜多のジジイんとこで、昔の教え子ってのに会って、アメリカの大学から招かれて今S大で教授やってるって、そいつ、コンピュータ駆使して代替えで実験するんだって」
 佑人は少しほっとした。
 そういうことだったのか。
 S大にこだわっていたわけだ。
 それでも色んな理由で人間の犠牲になっている動物たちのことを考えると胸がひどく痛い。
「でもよ……受かんなかったら二次募集、もしそんでも受からなかったら浪人って、なるべく考えねぇようにはしてたけどよ、何よりお前と会えねんじゃないかって…」
「だから、浪人だろうが何だろうが、何で、そこまで意固地になるんだよ! 俺の気持ちだって考えろよっ!」
 しっかと抱きしめられたまま佑人は文句を言った。
「だから死に物狂いだったんだって」
 打って変った甘い囁きに、佑人は顔を上げた。
 すると優しいキスを落とされる。
 だが、まだ繋がったままの状態で、またしても力の熱が存在感を増す兆しをおぼえ、佑人は焦る。
「ちょっと待て! もう、次はナシだからな! もう、タローの散歩の時間だろ」
 自分の名前が呼ばれたと思って、タローがゥオン! と一声吠えた。
「俺も、ラッキーが待ってるし……あの、あとでリリィで会おうよ」
「わかったよ。このままだとお前を壊しちまう……」
 壊れてもいいくらい思ったとは、佑人は口にはしなかった。
 足元がフラつく佑人を抱えてバスルームに連れていき、時折頬となく額となくキスを浴びせながら力は恥ずかしがる佑人の身体を丹念に洗う。
 ドライヤーで髪を乾かしたり、服を着たりする間も二人、主に力がベタついていたが、ドアを開ける前にもう一度、終始夢心地のままの佑人を抱きしめて深く口づけた。
「あのさ、俺も、力じゃないけど、受験に集中してみるよ。だから俺も合格するまで力とは会わない」
 部屋を出る時急に佑人が宣言した。
「お、おう、わかった」
 力は一瞬戸惑ったものの、力強く頷いた。

 
 「ワンちゃん猫ちゃんとご一緒に カフェ・リリィ」は、夜の常連客の他にバレンタインデーのひと時をカフェで過ごそうというカップルでいっぱいだった。
 だが、いつものソファの辺りはリザーブドのプレートがテーブルに置かれていて、佑人がドアをくぐると、まだ力はいなかったが、練がすぐそこへ案内してくれた。
「でも、大丈夫? 予約のお客さんいるんでしょ?」
「だから、成瀬くん」
「え?」
「力の予約」
 コートを受け取りながら練がこそっと佑人に囁いた。
 そんなささやかな配慮が佑人の心を舞い上がらせるが、周りを見回すと、カフェのバレンタインデーメニューを堪能しながら微笑みあうカップルばかりで、一応制服は着替えてきたものの、何だか自分が場違いのような気分になってくる。
「すみません、ミルクティをお願いします」
「了解」
 出かけてくる、と家を出る時、「お、ついにバレンタインデートか?!」などと郁磨にからかわれた佑人は一瞬、戸惑った。

 


back  next  top  Novels