まあ、確かに山内ひとみは演技、美貌ともに申し分ないだろう。
だが、都合つけといてくれ、という坂口の言葉からして、有無を言わせないところがあり、ひとみから文句の一つや二つは覚悟しなければならないだろう。
うっわあ、どうしよう、俺、つい、口がすべっちゃってって、まさかそれでキャスト決まるなんて……あとで工藤に言われるんだろうな、いらんことを言うからだとか何とか。
心の中で、あーあ、と良太は溜息をもらす。
穏やかに笑みを浮かべて坂口の話に耳を傾けている宇都宮は、割と強引に坂口に口説かれたような口ぶりにかかわらず、坂口との仕事を楽しんでいるようだ。
そろそろ河岸を変えようと坂口が言い出したので、良太はタクシーを呼んできますと席を立つ。
工藤に伺いを立てるまでもなく、良太は仲居にタクシーを呼んでもらうと同時に清算を済ませた。
外に出た途端すさまじい雪に吹きつけられ、良太はそこが北海道だったことを思い出した。
吹雪の中、二台のタクシーに別れ、良太は宇都宮と後ろのタクシーに乗り込んだ。
「何か広瀬くんて、見かけによらずできる人なんだね」
一体どこに行くのだろうと前のタクシーのテールランプに目を凝らしていると、隣に座る宇都宮がそんなことを言った。
「え、俺なんか全然そんな……あ、さっきの坂口さんにいきなり振られて、俺、ひとみさんくらいしか知らなかったんでつい口にしてしまっただけで、いや、どうしよう、俺のせいでひとみさんのスケジュールに支障がでるようなことになったら……」
見かけによらずって、やっぱ便りがいなさそうなのにって意味だよな。
「ひとみさんと親しいんだ?」
「え、いや、それこそ、とんでもないです」
良太は思い切り否定する。
「工藤とひとみさんは昔から仕事仲間なので、俺も顔を合わせているくらいで」
「ふーん、だったら坂口さんもひとみさんのことよく知っているみたいだし、心配することはないよ」
その時気づいたのだが、宇都宮の深いバリトンの声は穏やかで相手を不思議と安心させるようなところがあった。
舞台をやっているから発声も違うのだろうが、良太はこれが役者というものなんだとあらためて思う。
坂口と工藤を乗せたタクシーはやがて札幌でも名の知れたホテルのエントランスに乗りつけた。
「さては上のバーに行くんだな。この天気だからそう動かない方がいいかもね。ここに泊まってるんだよ」
「あ、そうなんですか」
良太は宇都宮が札入れを出そうとしているのを見て慌てて運転手に支払いをする。
「俺が払うよ、さっきの店も支払してくれただろ? 経費で落とせるし」
「いえ、会社の経費で落としますから、寒いですからどうぞ入ってください」
車を降りてから良太に言ってきた宇都宮に、良太は頑として言い張り、宇都宮をホテルの中へと促した。
「やっぱり大物だよね、広瀬くん、人気俳優なんかものともせず自分を貫くって」
宇都宮が笑う。
大物俳優なのに、いやだからなのか何だかこの人、気さくでいい人だよな。
良太は心の中でひとり頷く。
「工藤に鍛えられてますから」
「なるほど、そういえばパイオニアの野茂マニアなのはわかったけど、どこのファン?」
「地元ですから、レッドスターズですけど」
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