「川崎だっけ? あ、そういえば君の番組にはよく出てるよね、関西タイガースの沢村。彼って結構気難しいって聞いてるけど」
何だかもう馴染みの友人相手かのように、宇都宮は気さくに話しかけてくる。
「はあ、まあキッズリーグの頃からの腐れ縁のよしみで……」
工藤と坂口の後からエレベーターに乗り込んでからもそんな話をしている良太と宇都宮を工藤は少し目を眇めて見やった。
一緒に仕事をするのは初めてだが、宇都宮には悪印象を抱いたことはない。
業界関係者の話からも、そのモテようは半端ではないが仕事も手を抜かない、関係者に対する物腰や態度は丁寧で柔らかい。
だがどこをとっても非の打ちどころがないとはいかないらしく、手を抜かないせいで仕事上での意見の対立や喧嘩になることもあるし、昔からマスコミに女とのゴシップネタを提供することも忘れていない。
どちらかと言うとあまり隠さず大っぴらなところが、ダーティな工藤とは逆に好印象となっている。
とはいえ四十二歳のこの年まで独身を通しているため、言い寄る女は数知れず、長く続いて二年、早ければ数か月、去る者は追わずのようだが、感情が淡泊なのではないかなどという噂もないこともない。
それにもう一つ、信憑性はわからないがこの男がバイだという噂も訳知りの業界筋から工藤は耳にしたことがある。
そこまで考えて工藤は頭の中で今しがた考えていたことを否定する。
くそ………俺としたことが。
妙に意気投合している二人を前にして、宇都宮をそんなフィルターをかけて見てしまう自分に工藤は呆れた。
「どうかしたか? 工藤」
いつも以上に険しい顔つきをしていたのだろう、坂口が怪訝そうに工藤を見上げた。
「いえ、これからのスケジュール調整を考えていただけですよ」
「なあに、お前ならきっとうまくやってくれるさ」
「ったく、相変わらず能天気なその言葉、痛み入りますよ」
坂口は工藤の嫌味をものともせず豪快に笑った。
高層階にあるバーに入った四人は、VIP席だろう奥へと通された。
もちろん一人が宇都宮とわかったからだろうが、工藤なども負けじと一般人ではないオーラをビシバシ放っているのだ。
宇都宮さんは変装でもすればお忍びで行動も無理ではないかもしれないが、工藤は無理だろうな、どんな変装してもぜってーバレバレ。
良太は何となく二人を見比べながらそんなくだらないことを考えていた。
「あ、そうか! 思い出したぞ」
宇都宮と坂口はウイスキー、良太は工藤に倣うようにラム酒をもらい少し舐めたところで、急に坂口が良太を見て言った。
「どこかで見たと思ってたんだ、確か、君、以前、ドラマに出てただろう? 中川アスカの、チョイ役だったが妙に新鮮で俄かに騒がれたのに、工藤の事務所に問い合わせたら海外に行ったとか何とかで、そのまま噂も立ち消えになったが、あれ、広瀬くんだったのか」
いきなりの指摘に良太はうっかり呑み込もうとしたラム酒にむせ返りそうになる。
「えっ、いや、あの、あれは………」
「単なるピンチヒッターですよ。怪我をした役者の」
しどろもどろの良太に代わり、工藤がきっぱりと答えた。
「にしちゃ、結構いいセンいってたぞ。だから芸名が役そのものだったのか。もうやらないの?」
忘れていた古傷に塩を塗るように坂口が詮索してくる。
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