夢のつづき3

back  next  top  Novels


「業界では鬼が走り出したって、どこでも戦々恐々だって話だよ」
 今日もまた、夕方、良太の好きなシュークリームを手土産にふらりと現れた藤堂が言った。
 代理店プラグインのスタッフで、元は大手代理店英報堂のエリートだ。
「はあ??」
 怪訝な顔で聞き返す良太に、
「いや、だから工藤さんがあっちと思ったらまたこっちって具合に頻繁に顔をみせるものだから、青山プロダクションもいよいよ危ないだとか、業界大手を乗っ取るつもりだとか、さ、根も葉もない噂が飛び交っちゃって」
 と藤堂は肩をすくめてみせる。
「なんですか、それ」
「まあね、勝手に言わせておけばいいさ。にしても、うちの河崎なんか仕事大好き人間だから、工藤さんから声がかかって喜んで飛びまわってるよ。お陰で佐々木さんも仕事量が増えるし、こっちまで忙しくて、とんだとばっちりだよ。良太ちゃんも同じくだろ? 目にクマこさえて」
「はあ、社長が忙しくしてるのに、部下が遊んでるわけにもいかないんで。って、藤堂さん、どこが忙しいんです?」
 窓際の大テーブルに陣取った藤堂はバッグからタブレットを取り出して、たまにちょこちょこやりながら、さっきまではのんびりと鈴木さんの入れてくれた紅茶を手に、アカデミー賞の話で盛り上がっていたのだ。
「おやおや、これが忙しくないって?」
 画面をちらっと見れば確かに、メールチェックをしたりしてネットを見て遊んでいるわけではないことはわかるのだが、藤堂は何をしていても、忙しくみえたためしがない。
「まだ悠くん制作中なんですね。だから、うちにも帰れず、こんなとこきて油売ってるわけだ」
 ようやくお茶とシュークリームで人心地ついた良太は、思い当ってそう口にする。
 悠は藤堂の同居人で、絵描きである。
「さすが、良太ちゃん、鋭いね。確かにうちの芸術家は制作中に話しかけたりすると機嫌悪くなるんだよ。だがそれが理由なら、オフィスで仕事をすればいいことだと思わないか?」
「そうですね」
 良太は、でもここは自分のオフィスではないでしょ、という目を藤堂に向ける。
「ところが、何とオフィスにはコースケちゃんも三浦も出払ってしまっていないんだよ、今日も明日も」
 たまに素早いタイピングで打ち込んだりしながら、藤堂は言った。
「なるほど、会社にもからかう相手がいないものだから、ここにきていると」
「正解」
 藤堂はにっこり。
「いやあ、何分、一人で仕事するのが嫌いなたちで。よし、送った」
 データをクラウドにあげると、藤堂は指でテーブルを叩く。
「うちの横暴河崎は俺がどこにいようと、データを解析してすぐ送れ、とっとと送れとこうだからな、困っちゃうよ」
「でも、よそのオフィスでお茶を飲みながらデータ解析して送ってしまう藤堂さんも、ただものじゃないですよね」
「いやいや、俺はただのただものだよ」
 ワハハと笑う。
「この紅茶、美味しいですね、鈴木さん、いい香りだ」
「あら、そうですか? 知り合いの店でブレンドしてくれるんですよ。とっても美味しいって評判なの」
 確かに藤堂は若い女性から年配の奥様連中にも受けがいいわけだ。
 あれでニコニコくどかれたら、するりと隣を許してしまいそうだ。
 未だに藤堂という男は良太にとって謎の部分が多い。
 しかし切れ者だということは確かだ。
 それをひけらかさないのは、きっと育ちがいいからだろう。

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
いつもありがとうございます