「やたら、そのキーワードを繰り返すからさ。俺に言わせると、そいつは君のことを上っ面だけしか知らないんだ」
藤堂はしれっと言った。
「てことは、上っ面は能天気にみえると」
「賢そうに見えるバカより、バカっぽく見える賢者の方がいいに決まってる」
藤堂得意のわかるようなわからないような言い回しでそう断言され、良太はハハハとから笑いをする。
その時、オフィスのドアが開いて、工藤が帰ってきた。
「お邪魔してます」
ちょっと頭を下げる藤堂に、「今日は何だ?」と苦々しい表情を崩そうともせず、工藤は奥のデスクに向かう。
「ええ、ネットワークのことでちょっと」
藤堂は悪びれもせずそう答えて立ち上がり、帰り支度を始める。
「では、何分よろしく」
案外藤堂が工藤の雷を苦手にしていることはわかっていて、良太は慇懃無礼に挨拶をして出て行く藤堂の後姿を微笑ましく見送った。
そのうち鈴木さんも自分のPCの電源を落として、カップなどを片付けると、「それじゃ、私も失礼します。工藤さん、あんまりご無理なさらないでくださいね」と工藤に一言言い残して帰っていった。
工藤の電話が済むのを待って、良太はコーヒーを持って工藤の前に置いた。
「鈴木さんの言う通りだよ。最近、いくら何でも無理しすぎじゃないですか。ずっと休みも取ってないし」
「俺のことは俺が一番よくわかっている。お前に指図されることじゃない」
「誰がいつ、指図なんかしたよ! 俺だけじゃない、みんなも心配してる」
これだから、ひねくれ者め!
「俺の心配より、お前こそ俺のフォロウなんかして、無理して目にクマなんぞ作る必要はない。お前は自分の仕事だけきちんとやってろ!」
これでカチンとこない方がおかしいのだ。
「俺は目の前に仕事があったからやってるだけだ。自分の仕事をおろそかにしているつもりはないよ!」
まだ何か言いたかったが、すぐに電話が鳴り、良太は、勝手にしやがれ、とばかり、自分のデスクに戻る。
電話が終わるや否や、またコートを掴み、「これから札幌だ。お前はもういいからとっとと切り上げろ」と言い捨てるようにして、工藤は出て行った。
良太が何となく窓を見やると、タクシーを拾う工藤の姿が見える。
車はやがて夜の街に消えた。
工藤が自分のことは棚に上げて、良太を気遣ってくれているのはわかっていた。
あんな言い方しかできない男だともわかっているつもりなのに。
だが、ついつい、それにのせられて激昂してしまう自分が情けない。
とりあえずできる手配は済ませようと、受話器を取った。
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