笑顔をください34

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 松永はとっくに帰り、生徒会室には勝浩とぼんやりたたずむばかりの七海と二人だけだ。
「帰る? 七海」
「あ、ああ」
 七海は力なく返事を返す。
 勝浩は七海を促して生徒会室を出ると、鍵をかけ、顧問に鍵を返すために職員室に向かった。
「七海はまだあの人のことが好きなんだろう?」
 唐突な勝浩の問いかけに七海の青い瞳が揺れる。
「知ってるよ。俺のガードを引き受けたのだって、ほんとは城島さんがガードするって言ったからだ。俺をかばって城島さんに何かあったらって考えたからだ。そうだろ?」
「勝浩……」
 七海は何も反論できない。
「あんな目にあっておいて、まだ懲りないのか? あいつら、城島さんと長谷川さんは、ゲームで七海の心を弄んだんだよ? それなのに、さっきだってあんなこと言ってさ。城島さんの神経って、おかしんだよ」
「……だな…。ついでに俺の神経も相当鈍ってるらしい」
 勝浩のきつい言葉に、七海は力なく笑う。
 七海の作ったオムライスに子供のように喜んでいた。
 志央の自分に向けた笑顔は、どんな天使よりも綺麗だと、とっくにもう心の中にインプットされてしまったのだ。
 どんなにつれなくされても、突き放されても、あの笑顔が嘘だとは思えなくて、忘れられなくて。
「それにっ! 第一あの二人ってデキてんだよ? 表向きは優等生の顔してさ、生徒会室でいちゃついて!」
 キスしていた二人のシーンがいやでもよみがえる。
 同時に裏切られたとわかった時の胸の痛みも。
 けれども、それは裏切られたからというより、幸也へのジェラシーの方が勝っていた。
「大嫌いだ! あの二人」
 だけど、文句を言いながらも勝浩は毎日生徒会室に行く。
 七海も気づいていた。
 勝浩は長谷川に突っかかっていくくせに、長谷川のことをひどく気にして、いつも長谷川を見ていると。
 勝浩はおそらく長谷川さんが好きなのだ。
 だけど長谷川さんは志央さんを…。
 本気じゃなかったんだって、騙されたんだってわかってるのに、あの人を追ってしまう。
 せつない恋だな。
 絶対届かない。
 笑い話だ――――。
 でも志央さんのそばにいたい!
 離れたくない――――!
 
 

 五月も最後という日、外は大荒れで雨と風が激しく吹きすさび、傘も役に立ちそうになかった。
 メイストームってとこか。
 志央はぼんやり窓の外へ視線を向けて心の中で呟いた。
 朝から幾度となく窓に打ちつける雨だれを見つめながら、一日が過ぎていく。
 今日、生徒会の引継ぎが終われば、明日から晴れて自由の身だ。
 そしたら、もう生徒会にも関わりがなくなり、もう、七海とも関わりがなくなる。
 それを考えると、またキリキリと胸が痛むのだが、目の前で勝浩と仲良くされるよりはマシかもしれない。
 ポケットを探っていて、携帯のストラップに指が触れ、志央はそれを取り出した。
 七海がくれた犬のストラップ。
 こんなものを後生大事に持ってる俺なんて、俺じゃないよな。
 勝浩は女の子じゃないが、とても可愛いし、小柄で華奢でさぞ守りがいもあるだろう。
 俺なんかでは、確かに七海には似合わないな。
 志央はくくっと自嘲する。

 


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