階段を駆け下りる途中、また幸也のポケットで携帯がなる。
『本校舎探してますがいません。そっちは?』
勝浩だ。
「いない。あとは体育館か、ホールの屋根とか…」
その頃東棟を飛び出し、グラウンドから校舎を見回し、本校舎の時計塔に目をやった七海は動きを止める。
時計の針の近くに人影が見えた気がしたのだ。
「勝浩! 時計塔に誰かいる! 桜庭かも知れない!」
七海は走りながら勝浩に携帯で知らせ、すぐさま本校舎に飛び込んだ。
このあたりは志央に丁寧に説明をしてもらったところだ。
図書館の横の非常口からしか上には上がれないことになっている。
古い時計塔の中など滅多に誰も入ることはない。
足音をさせないよう用心深く石段を上がる。
暗がりにバッシュを踏み入れる。
どこに桜庭がいるのかわからない。
「桜庭」
声をかけると、ひっと息を詰める気配がした。
「俺、藤原だ」
「来るなよ!」
ギシと床が鳴る。
「ここで死んだら犬死だろう、考え直せ」
七海は一歩前に出る。
「お前にはわからない。俺はもう死ぬしかないんだ。来るなっていってるだろ!」
「じゃあ、死ぬ前に、志央さんの居所を教えろ! 志央さんがいない。早く探し出さなけりゃ!」
目が闇に慣れてくると、桜庭が時計塔の外側の縁にいるのが見えた。
「城島さんが!?」
桜庭は驚いて聞き返す。
「そうだ! 黒幕は誰だ? そいつはどこにいる?」
慎重に七海はまた一歩前に進む。
「あいつは……城島さんに執着していたからな…ずっと」
「あいつって誰だ…?!」
躊躇した桜庭は、ほんのわずかな隙に七海に引き擦り込まれた。
「うわあっ!」
間一髪、もう少し遅ければ、桜庭は完璧まっ逆さまに土の上に叩きつけられていた。
「さあ、志央さんはどこだ?! あいつって誰だ? どこにいる? 吐け! 吐かないと、ここから俺が突き落としてやるぞ!」
七海は桜庭の胸倉を掴み、問い詰める。
「わあ、やめてくれ! わかった、話す!」
七海の形相に、たった今死のうとしていた男は、恐怖で震え上がった。
その時、ぴぴ…ぴぴ…と、急に鳴り出した携帯に、七海は自分のポケットを探る。
「まさか、志央さん!?」
明らかに志央の携帯番号だが、ものも言わず何か物音がするだけだ。
『やめろ! 放せってるだろ!』
やっと聞こえてきた声は思いも寄らない叫び声だ。
「志央さん?! どこだ?! どこにいるんだ、志央さん!」
「おい、藤原、そこにいるのか!?」
幸也や勝浩たちも駆け上がってきた。
「待って…」
勢い込んで聞く幸也を制して、七海はじっと耳を済ませる。
『ここは立ち入り禁止だ。誰もきやしない』
くぐもった別の声が少し離れたところから聞こえてくる。
「立ち入り禁止って、どこですか!?」
七海は幸也を振り返って問い正す。
「立ち入り禁止って……昔のクラブハウスか?」
「クラブハウス?」
「西棟の裏だ、七海!」
勝浩が言った。
それを聞くと、七海は携帯を握ったまま時計塔を飛び出した。
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