怯えて唇を噛む志央に興奮した高橋の荒い息がかかる。
犯られる…
志央は覚悟した。
こんなことなら、七海にやらせてやればよかった…。
チキショー…、江ノ島、行きたかったな…
七海と…。
「志央さん!! どこにいるんだ?!」
空耳か…と志央は思う。
「志央さん!」
いや、あれは確かに、クラブハウスの外から聞こえてきたのは七海の声だ。
高橋もはっとして、志央を放す。
「ここだ! 七海ーーっ!!」
グァシャーーーン!!
ガラスが砕け散る凄まじい音。
窓をぶち破って飛び込んできた大きな影。
「志央さん…!」
七海は瞬時にして事態を悟る。
「こんのぉ………きっさま、俺の志央さんに触るんじゃねー!!」
あっという間もなく男たちは殴り倒され、高橋は床に沈んだ。
七海は志央に駆け寄り、思い切り抱きしめた。
「七海…」
七海の勢いに恐れおののいて、やっと起き上がった男たちはあたふた逃げようとドアから走り出た。
だが、そこへ幸也や勝浩、それに松永や大山、西本が駆けつけ、逃げようと暴れる男たちを叩きのめして捕まえた。
「志央…!」
クラブハウスのドアを開けた幸也はしかし、ものも言わず志央を抱きしめている七海を見て、言葉をなくした。
「おい、こいつら、生徒会室へ連行するぞ!」
開けたドアをまた勢いよく閉めると、幸也は怒鳴りつけるように指示した。
「大丈夫ですか?」
バスルームのドアが開くと、七海は出てきた志央に尋ねた。
おそらく幸也だろう、志央に敗れたシャツの上から制服を着せて七海が肩を支えて古いクラブハウスを出てくるとタクシーが停まっていた。
七海は志央をそのまま家まで送ってきたのだ。
「おかげさまで……。もう帰っていいぞ。悪かったな、世話かけて…」
志央は目を合わせようとはせず、バスローブを握り締めて、声を絞り出す。
七海はそんな志央をじっと見つめた。
駆けつけた時、俺がどんな気持ちだったかなんて、わかんないんだろうな、志央さん。
でもあんな目をしてすがってこられたら、身動きが取れなくなる。
いつも肩意地張っている志央さんの、そんな脆さを見てしまうと、たまらなくなる。
俺を騙していようがいまいが、そんなのどうでもよくなってしまう。
とっくに許してしまっているのに。
「そうですか。じゃあ、帰ります」
心とは裏腹に抑揚のない声で、七海は言った。
え……
そんな冷たくしなくてもいいじゃんかよ。
その背中にすがりそうになり、志央は無理やりまた顔をそらして唇を噛む。
こいつに、そんなこと言える義理じゃなかったんだっけ。
「何で」
「…え?」
志央は顔を上げる。
「俺の名前なんか、呼んだんです? おかげでみんなにあんたと俺のこと疑われてしまいましたよ」
背中を向けたまま、七海が口にする言葉は、志央の心にひとつひとつ突き刺さる。
言葉を失い、体を動かすこともできない志央を置いて、七海はさっさと玄関に向かう。
待て…
七海……!
言葉が出ない。
なのに追いかけずにはいられず、志央は裸足のまま玄関に走る。
七海は膝をついてスニーカーの紐を結んでいた。
「な…なみ…」
「何ですか?」
振り返った七海は、この上ない冷ややかさで志央を見つめる。
志央は全身が凍えそうになる。
「…わ…かったよ…!」
七海の目にはもう、俺なんか映ることはないんだ。
だけど、行き場をなくしたままの哀れな思いは止まってくれない。
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