いつかそんな夜が明けても13

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    ACT 4
 

 ロケは多忙を極めた。
 主に良太ひとりが一から十まで何もかもを抱え込み、パンク寸前にまでいった。
 工藤も下柳もいない、助けてくれるものは誰もいない中で、そのうち、スタッフにうまく動いてもらうことを覚え、混沌とした人間の感情の坩堝のような状況をかろうじてさばいた。
 それでもロケから帰って、工藤と言葉を一言でも交わせたら、何もかもが報われるような気がしていた。
 疲れて戻ってきたオフィスに工藤の姿はなかった。
 出ずっぱりなのは今に始まったことではない、良太は思い、今度の出張から戻ったら会えるだろうと、時折かかってっくる工藤の電話だけを心待ちにして、日を暮らした。
 だが、次の出張が終っても、工藤がオフィスに来たらしいことだけは後で知った。
 まるで、良太のいない時を見計らったように、工藤はオフィスに立ち寄っているような気がする。
 
 ―――――――――え…………
 俺、避けられてる?
 
 いくら何でもこんなことは今までになかった。
 こちらから携帯に電話をしても、いつも留守電か、電波の届かないところ、だ。
 まるで別れたい女にずるい男がよく使う手口のようだ。
 ――――――――どうして?
 自問しても答えは出てこない。
「なんでだよっ! バカオヤジ!」
 俺が何したってんだよ………………。
 あの朝、漠然と感じていた不安が、良太の中で次第に大きな闇となった。
 ロケにもついに工藤は姿を見せなかった。
 良太はぼんやりとホテルの窓から夜の空を見上げていた。
「ねえ、高広、どうして来ないのよ!」
 背後から声をかけてきたのは、山之辺芽久だ。
 ヒールを履くと軽く良太を見下ろせる。
「今、別件で海外に行ってます」
 アスカから昔の彼女と工藤のいきさつは聞いていた。
 週刊誌に取り沙汰されたような大人の遊びだの、割り切った恋だのではなかったのだ。
 工藤にうまく捨てられたのだ。
 ひょっとして、あの日映のパーティで桜木代議士と出くわした時、工藤はあらためて再認識したのだろうか、ちゆきという、今は亡き恋人がやはり忘れられないのだと。
 良太の胸がきりきりと痛みを訴える。
 二人の関係が永遠だなどとは思ってはいなかった。
 いつか、工藤が離れていく日がくるのだという思いは、心のどこかに常にあった。
 もうこれで最後だと、言われる夜がくるかもしれないと。
 けれど、工藤がどこかで生きている限り、自分もちゃんと生きていかなくてはいけない。
 生きている限り。
 だから、そうだ、工藤を護らなくては!
 良太はふと、あの時の医者に確かめてみようと思い立った。
 工藤が教えてくれないのなら、自分で聞いてやる!
 
 
 
 
「よう、あん時の坊やか。どうしたい? こんな遅く」
 Tシャツにジーンズといういでたちで良太を迎え入れた加賀は、相変わらず酒臭い息を吹きかける。
 夜八時だから、しょうがないかもしれないが、急患があったらそれで対応するのか、と良太はちょっと顔を顰める。
「今日は患者さんは?」
「ご覧の通り、閑古鳥ならいくらもいるが」
 ニヤニヤ笑って煙草に火をつける。
「工藤さん、あれからこちらには?」
「ああ、二度ほど、包帯取替えに。とっくに治ってるだろ、今頃は」
 二月も終わりを迎えたのだから治癒しているだろう。
 そうか、そんなに前だったのだ、工藤が俺の部屋にきたのは。


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