その日は夕方までチラホラと会社に来客が続いた。
「こんにちは」
小夜子が現れた時は、鈴木さんもにこやかに出迎えた。
「暮れから随分お世話になってますし、何がよろしいかと迷ったんですけど」
東洋グループ次期総帥夫人はチョコレートの大きな包みと、工藤には酒を、良太にはマフラーをくれた。
「そうだ、先日はスキー合宿、参加させていただきました。ありがとうございました」
「京助さんにいいように使われたんじゃなくて?」
丁寧に礼を言う良太に小夜子は笑顔を向けた。
「え、いえいえ、とんでもない」
「またいつでもいらしてね」
豊かな黒髪に黒のコートに身を包んだ今日の小夜子は、すがすがしくもクールに美しかった。
「あ、忘れるところだったわ、これ、猫ちゃんに」
大きな紙袋の中身はペット用ベッドが二つ。
「うわ、ナータンたち、喜びます。ありがとうございます」
「千雪ちゃんから押し付けられたんでしょ? 仔猫」
「いえいえ、好きですし、俺」
運転手つきの大型ベンツが走り去るのを窓から眺めながら、「相変わらず、素敵な人だよな」と良太はポツリと口にする。
「ほんとねぇ、千雪さんによく似てらっしゃるわね」
「ですね」
「それにしても、今年もたくさんいただいたわねぇ」
鈴木さんはテーブルに詰まれたプレゼントの山を見て、呆れたように溜息をついた。
「はあ、しかもさっき工藤さんからのお達しで、工藤さん宛てのものは全部開けて、みんな分けろって。あ、でも鈴木さんとか、奈々ちゃんからとか内輪の方からものはちゃんと自分で食べたりしてますから、社長室のデスクに置いておきましょうか」
「まあ、だって、個人的なものもあるでしょう?」
良太がクローゼットで腐ったものがあったので捨てた云々を説明すると、鈴木さんは、まあ、とまた大きな溜息をついた。
やがてアスカや奈々もオフィスに立ち寄り、工藤と良太、それに秋山や谷川、小杉、真中、平造、嘱託カメラマンの井上と、それぞれに宛てたチョコレートやプレゼントを置いていった。
もちろん、アスカは良太の母親からの手作りケーキを平らげて行った。
「内輪のは、向こうのテーブルに移しましょうか」
鈴木さんとプレゼントの仕分けをするだけでも小一時間かかった。
高校時代くらいまでは、バレンタインデーでドキドキした記憶があるが、この会社に入ってからは、ドキドキどころの騒ぎではない。
しかし、厄介な連中からはまだ音沙汰がない。
「このまま平穏無事に今日が終わってくれればいいんだけど」
そろそろ時刻は六時になろうとしているが、何やら不吉な予感に良太はちょっと武者震いを抑えられなかった。
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