春雷42

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「千雪さんと対談しただろう竹野さん。アスカさん、うちの事務所に入ったのだって、千雪さんフリークだったからだろ? だから、面白くなかったのかとか思ったんだが」
 秋山がそう思うのも無理はないが、ベクトルが自分に向いているなんて思いもよらないんだな、と良太は思う。
「うーん、まあ、それもないことはないんですけど」
 ここは言葉を濁すしかなくて、良太は口を噤む。
「でも多分、もう大丈夫だと思いますよ」
「え? ほんとに?」
 秋山はまだ納得がいかない顔で聞き返す。
「はい」
 良太の言う通り、やがてアスカは控室を出てくるなり、秋山に頭を下げた。
「ごめんなさい」
「…や、もう、大丈夫なのか? もし体調が悪いのなら……」
「大丈夫です。頭痛薬も飲んだし」
 微笑むアスカの目にはしっかりした光が戻っていた。
 それから秋山や良太と一緒にアスカは監督に侘びを入れた。
「ああ、大丈夫? 片頭痛は患った本人しかわからないもんな。みんなには休憩を長く取ってもらったから、何も心配しないでいいよ」
 森村に頼んで有名どころのパティセリーでシュークリームやマドレーヌなどを買いに行ってもらい、次の休憩には良太も一緒にみんなに配って回る。
「アスカさん、平気?」
 竹野は良太を捕まえると、秋山と話しているアスカを見ながら心配そうに聞いた。
「頭痛はきついわ。私も経験あるからわかる」
「ありがとうございます。最近の薬って即効性あるから。俺も風邪引き込まないようにしないと。ドリンクとかは飲んでるんだけど」
「ビタミンサプリとかもいいよ?」
「ああ、俺も買ってみよ」
「でもさ」
 竹野が良太の腕をつつく。
「はい?」
「あの二人って、いい感じだよね」
 二人と言うのがアスカと秋山のことだとは良太もわかる。
「え………」
「なんか、ほら、割れたハートのやつ、二人のぴったし合ってるって感じ?」
 竹野が鋭敏な感性を持っているというだけでなく、やはり二人をそう見る人もいるということだろう。
「いや、あの二人は別に……」
「やだ、マネ―ジャーとくっついちゃダメとか言わないでよ? くっつく時はくっつくんだから」
 そう言うと竹野はマドレーヌをぺろりと平らげた。
「うーん、まあ、今のところはちょっと放っといてやってください。ここだけの話、まだ様子見の段階だから」
 竹野がそんなことをわざわざ吹聴して歩くことはないはずなので、良太が仕方なくそう説明すると、竹野はフフっと笑うと、「わかった」と頷いた。
 しかしほんとに、竹野も変わったと良太は思う。
 棘が取れて可愛くなったかも。
 と、ポケットの携帯が震えた。
 取り出すと工藤の文字が浮かんでいる。
「はい、お疲れ様です」
「そっちはどうだ?」
 いつものように前置きなしの質問に、「ええ、今のところ滞りなく」と良太は答える。
「秋山の件はどうだ?」
「そっちは、そう簡単にはいかないみたいですよ。企業犯罪ですし」
「ったく、小田のやつ、とっとと動けよ」
 苛立たし気に工藤が言うと、「そんな、ムチャなこと言っても」と良太は反論する。
「アスカはどうだ?」
 おや、一応アスカのことも気にかけていたんだ、とは思ったが、良太は口には出さない。
「それも何とかなりそうです」
「ならいいが。明後日には戻るが、平造の方は片がつかないようだったら、ホテルでも取ってやれ。俺の部屋だと、何だかだと動くからな、あいつは。ゆっくり休ませてやれ」
「はい、わかりました」
 確かにそうかも知れない。
 掃除やら洗濯やら片づけやら、そこは工藤と同じく動いていないと落ち着かないというやつだ。
「ああ、明後日のNTVの会議、俺は間に合うかどうかわからないから頼むぞ」
「え、はあ、わかりました」
 例の検事六条渉シリーズの会議が午後一時からで、NTVのプロデューサー陣、広報部と監督、脚本家に加え制作プロデューサーとして工藤と良太が出席するはずだった。

 


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