シリーズ初めてのドラマ化で、連ドラとなる予定であるが、主演の六条渉役が山内ひとみで決定しているものの、それ以外のキャスティングがなかなか決まらない。
というのも局のプロデューサー陣が示したキャスティングにスポンサー側が首を縦に振らなかったのだ。
そこで例によって会議までにキャスティングをしておけ、という命を結構前に良太は工藤から受けていた。
一つの役に数人ずつリストアップはしているものの、後は工藤の承認を待って最終的に決定しようと思っていた。
「あ、では、キャスティングのリストを送りますので、見ていただいてから」
「送らなくていい。お前が決めろ」
「え?」
何か言おうとした時には既に電話は切れていた。
「あんのクソオヤジ!」
良太は思わず口にして、傍にいた竹野に聞かれた。
「フフ、工藤さん?」
「あ、いや、ハハハ」
適当にごまかそうとしたが、「頑張れ、良太」と竹野は良太の背中を軽く叩くと撮影に向けてスタンバイした。
ふと見ると、アスカが秋山と談笑している。
わだかまりはとりあえずなくなったのかな。
「あ、そうだ」
良太はピアノのチケットのことを思い出した。
あと三枚残っていて、もしアスカと秋山が険悪ムードじゃなければ聞いてみようと思っていたのだ。
「え、十四日の夜?」
「ああ、その日は夜、アスカさん、オフですが」
アスカと秋山に聞くと、拒否る理由がないという感じだ。
「ええ、三田村さんに頼み込まれちゃって、あと三枚何とかしないと。お二人が行っていただければありがたいんですが」
あくまでもお願いしたいという態で良太は言った。
「私はいいわよ」
サラッとアスカは頷いた。
「え、でもアスカさん、体調は?」
秋山は心配そうに聞き返す。
「ピアノなんて、逆に体調にいいに決まってるじゃない」
「なら、いいですけど」
バレンタインデーだろうが何だろうが、秋山がアスカの体調のことの方が気になるらしいのを見ると、やはり佐藤とは何でもないのだろうと良太は結論付けた。
しばらくはきっと、アスカも今まで通りの秋山との距離を保っていくつもりなのだろうとも思われた。
「アスカさん、結局、秋山さんに好きって言わないんですか?」
日をまたぐことなく何とか撮影は終わったので、良太の車に続いて青山プロダクションの駐車場に車を入れると、車から降り立った森村がボソリと言った。
「みたいだね。現状維持ってとこだろう」
「うーん、俺なら好きなら好きって言っちゃうけどな。じゃないといつ付き合うの?」
良太の答えに、森村は不服そうだ。
「多分、秋山さんが一度婚約者に手痛い目に合っていることを考慮して、アスカさん、もう少し待つんじゃないかな」
「ああ、うん、なるほど」
カップルなら最初からイチャイチャもいいが、中には静かに思いを育てていくような二人がいてもいいだろうと、良太は何となく思う。
「ってか、モリー、彼女が欲しいって言ってるのに、いいなって思う子、いない?」
「そうだね、何か、ダメ。ピントが合う子がいないっていうか。俺が見るとどの子も視線を逸らしちゃって、俺、嫌われてる?」
良太は笑った。
「嫌われてるんじゃないけど、多分、アプローチの仕方が違うんじゃないか?」
「ああ、そうか。難しい。パーティとかあんまりやらないでしょ。スキーの時がちょっとパーティだったよね。今までに会った中では直子が一番話が合う気がするけど、直子は佐々木さん一直線って感じだし」
「まあ、確かに、そんな感じに見えるよね」
傍で見ていると、佐々木と直子はよくできたカップルというイメージだ。
「でも、佐々木さんは沢村と付き合っているわけで、直子は平気なのかな」
森村は首を傾げる。
「うん、でも、想いは人それぞれだし」
良太は自分でそう口にしてから、ああ、そうなんだとあらためて研二のことを少しだけ理解したような気がした。
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