風そよぐ4

back  next  top  Novels


「今回は五回くらいの連ドラだ。急なのは、決まってたドラマがぽしゃったからだ。秋ドラマだから局側もちょっとやそっとの番組を入れるわけにはいかずに、こっちは実際もっと先の予定だったが、失敗のないこのシリーズを持ってきたというわけだ。まあ、力入ってるみたいだから、お前もたまには撮影覗けよ」
 工藤に言われて、千雪は、はあ、とおざなりな返事をする。
「舞台が京都だからいいだろ」
「まあ、できる限り」
 京都が舞台ってことは、映画の撮影も京都メインだし、いいか、って、結局俺のところにいろいろお鉢が回ってくるってことじゃないのか?
 心の中でああだこうだと考えて良太は先を思いやる。
「あとのキャストはお前に任せる。千雪、使ってほしいキャストがいたら良太に言ってやれ」
 ざっと打合せを済ませると、後は良太に頼んだとばかりに工藤は立ち上がった。
「フジタ自動車行ってくる」
 颯爽と出て行った工藤だが、良太はその顔に疲れを読み取って、いつものごとく工藤に言わせれば余計な心配顔でその後姿を見送った。
「あら、もう出かけてしまわれたの? コーヒーお持ちしたのに」
 キッチンから出てきた鈴木さんがほうっと息をついた。
「工藤さんもかなりお疲れみたいなのに、ご無理なさらなければいいけど」
 鈴木さんの言葉に一つ頷いて、良太は千雪の顔を見た。
「ご要望のキャストはいかがですか?」
「んなもん、わかるわけないやろ、俺が」
 首を横に振る千雪のにべもない答えに、「もう、ちょっとは俺を助けてくださいよお!」と良太は半泣きで訴えた。
「あ、そうだ、今テレビつけますから、CMに出てきた人を、これ、って言ってください」
「良太、相当切羽詰まってるな?」
 呆れる千雪の言葉にも耳を貸さず、良太は壁に設置してある六十五インチテレビをつけた。
 ちょうどやっていた番組は昼過ぎのニュースショーだった。
 評論家という顔をした数人がデスクに座りああだこうだと持論を述べている。
 先頃贈賄の容疑で取り調べを受けた衆議院議員の話題が終わったところで、CMが入った。
「ほな、この人」
 まったく適当に千雪は言ったのだろうが、保険のCMで、今人気の若手女優と一緒に出ていたのは、本谷和正だった。
「ああ、本谷さんか………」
 ちょっと人気が出てきたところで、事務所の思惑から無理やり連ドラの主演をはらされて、それがたまたま工藤が関わっていたため、最初は学芸会以下だとかクソミソに罵倒されていたのだが、案外打たれ強かったというか、科白はどうでも表情がよくなったと、ドラマの視聴率が微増だが右肩上がりのみならず、ネット配信の状況もまずまずだった。
 で、ついこの間も、『田園』に出演が決まっていたスポンサー押しの俳優が、主演の竹野紗英と密かに付き合っていてしかも手ひどくふられた事実が発覚して降板してしまい、脚本家の坂口陽介から良太に誰か探してくれと丸投げされ、つい、うっかり本谷の名前を出したところ、事務所側もGOサインを出したという、今となってはこれからブレイク間違いなしだろう俳優の一人だった。
「おい、適当にいうたんやで。ほんまにこいつにするわけやないやろ?」
 ちょっと考え込んだ良太の顔を千雪はのぞき込む。
「いや、この人、今人気上昇中で、CMも増えてるんですよ。人選としては悪くはないんですけど。確か、原作では人のいいリーマンが事件に巻き込まれて被疑者にされるというメインキャスト設定ですよね?」
「まあ、せやけど」
「本谷くんもともとリーマンだったみたいだし、悪くはないんですよねえ」
 しかしここにきてまた本谷か、という展開だ。
 『田園』の時は、ほんとに時間もなく、うっかり頭に浮かんだ本谷の名前を出したら、坂口がOKしたという成り行きだったのだが、ひっかかりは本谷の実力とかには関係のないところにあった。


back  next  top  Novels