風そよぐ3

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「少しは元気になったみたいね、お二人とも」
 鈴木さんがお茶のおかわりを二人の湯飲みに注ぎ、弁当の器をまとめて台所に向かった。
「工藤さん、最近も海外とか?」
 熱い茶を少し冷まして口に持って行った千雪が思い出したように聞いた。
 途端、昨日の夜中、やっと部屋に帰ってきて疲労困憊の良太の都合も何のそので自分の都合だけで良太を強襲してくれた男の顔が瞼に浮かび、良太はちょっと身体の火照りを思い出しかけて懸命にそれを思考の外に押しやろうと眉をひそめた。
 まったくあのくそオヤジときた日には。
 お陰で良太の疲労困憊はいや増さざるを得なかったのだ。
 工藤と良太がそういう関係にあることは、この千雪にしろ近しい者は大抵知っている。
「いや、最近は、何せ、例の『大いなる旅人』シリーズ、ドラマが好調で第四弾まで海外が背景だったんですが、今度映画化が決まって、背景が主に京都なんですよ。ちょこっとニューヨークも入るみたいですが」
「あれ、おもろいな、時空を飛び回るサスペンス? へえ、京都なん?」
 千雪が顔を上げた。
「そうなんですよ、しかも安倍晴明が出てきちゃうんです。プロモーションはちょこちょこもう映像でやり始めてるんですけどね」
「それはますますおもろいな、安倍晴明かあ」
「来年公開予定なんですけどね、俺も楽しみにしてるんですが………」
「何か問題ありか?」
「まあね、おそらく、工藤が海外に飛んでる間は、京都は俺に丸投げになるんじゃないかって」
 ハハハと笑い飛ばしている時に、オフィスのドアが開いた。
「何だ、珍しく早いじゃないか。暇なのか」
 足早にオフィスに入ってきた工藤は千雪に気づいてそう言いながら、奥のデスクへと向かった。
「冗談! せっかく最優先で来たったのに、徹夜明けやで? まあ今、美味しいお弁当をいただいたとこですけどな」
 千雪が言い返すと、工藤はフンと鼻で笑い、「一つ電話をするから待ってろ」とデスクの電話を取った。
「工藤さんの分も、お弁当取ってありますよ」
 鈴木さんが弁当とお茶を持って声をかけると、「じゃあ、二人の横にお願いします」と手短に言って工藤は電話をコールした。
「相変わらず忙しない人やな」
「さあ、根が貧乏性なんじゃないですか」
 こそこそと千雪と良太が言い合っているうちに工藤がやってきた。
「良太、ヤギの方はどうなってる?」
 良太の横に座るなり弁当を開きながら、工藤が聞いた。
「三時から合流する予定です」
「明日だったな、打合せ」
「はい、正午から、Oホテルのカトレアで昼食会になってます」
 味わう間もないだろう、工藤はそれでも腹が減っていたのか箸を動かしながら良太に確認した。
 ここ数年撮影を続けてきた、年明けに放送予定のMBC制作特別番組「レッドデータアニマルズ‐自然からの警告」のプロモーションビデオはテレビ、ネット、SNS等折に触れて配信している。
 ナビゲーターには大物芸人で司会者、MCとしても人気が高い林田良和、プロ野球元ホワイトベアーズ監督古谷哲也を迎え、予定されているディスカッションにはパネラーとして番組の音楽を担当した『ドラゴンテイル』のボーカル水野あきらとギターの斎藤幸成、番組の監修を担当した動物行動学者で東京科学大学教授内野孝蔵、そして華を添える目的もあるが、保護犬や保護猫が家に数匹いるという女優の中川アスカの他、保護活動をしている団体『あにまる』代表石岡ひろみ氏を依頼している。
 明日はMBCのプロデューサーをはじめ、ディレクターの下柳、カメラマンの有吉とともに工藤と良太も出演者とともに食事会に列席することになっている。
 下柳とともに実際の映像制作に立ち会いつつ、会場の手配から各事務所を通して出席確認をし、『田園』のドラマ撮影で北海道ロケにも立ち会い、良太は昨日東京に戻ってきた。
 機内で爆睡したものの、それから小笠原の出演するドラマの撮影でスタジオで夜中まで立ち合い、しかも昨夜は夜中やっと帰ってきた矢先、工藤がやってきたというわけで、疲れと睡眠不足は溜まり続けている。
 まったく、俺なんか朝やっとの思いで起きたんだからな。
 気が付いたらいつものごとく工藤は出かけていた。
 横目で工藤を睨みつけてやるものの、当然、工藤にも疲れの表情が垣間見える。
 にしたって工藤、こんなことずっと続けてて、よく生きてるよ。
 ボソリと心の中で呟く良太だが、俺も年くってきたとか、これじゃ言えないじゃんね、と手早く食事を切り上げ、さっそく『からくれないに』の話に入る工藤を見つめた。

 


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