風そよぐ2

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「『花の終わり』はもう過去の話でしょ? 『からくれないに』は秋に放映予定ですから。確かに昔のように二時間ドラマでテレビ欄が埋まるみたいなことはないですけど、ぼちぼちと枠もありますし、そこそこ視聴率取れるドラマですからね、老弁護士シリーズは。それに今回、数回ですけど連ドラになるんです」
 箸をおいてお茶をのむと、千雪の疑問に良太が答えた。
「連ドラ? ほんまに大丈夫なんか? キャストってまた大澤流とかやろ?」
 たまたま大澤流は千雪の本来の姿を知っている数少ない俳優である。
「まあ、大丈夫なんじゃないですか? だから、ちょっとまた撮影とか、いろいろ変わるみたいで。スタジオ撮りとかも増えるし」
「ふーん、そうなん。そういえば、『花の終わり』て、良太、大変やったみたいやないか、撮影とか」
 自分の作品のドラマだが、他人事のように感心して千雪は言った。
「そうなんですよ、もう、山野辺は毒を吐く、監督と脚本家はハブとマングース、宥めすかしてゴールに向かわせるのが一苦労で。その間もちょいちょい、面倒ごとが降りかかるし」
 もはやご近所の井戸端会議もどきになり果てている二人の愚痴は声高に続いた。
「面倒ごと? 工藤さんのほかにか?」
「ああもう、あのオヤジは山野辺のことも何もかも俺に丸投げしてホイホイ海外ですからね、論外ですけど、沢村のやつがまた何だかだと」
 プロ野球関西タイガースの四番を打つ人気スラッガーの顔を頭に思い描いて良太はぶつくさ口にする。
「沢村と良太て仲ええんやもんな」
「仲いいもんですか。いやあ、ガキの頃からの腐れ縁ですって」
 一つはあと息をついて良太は沢村と佐々木のひと悶着を思い起こした。
「沢村とつきおうてる佐々木さんて、京助の実家のお隣さんやったな」
 CM業界などでは稀代のクリエイターと言われている佐々木とは、仕事を通じて良太も顔なじみである。
「はあ、このご時世あんな一等地に広い土地もってると、大変ですよね」
「小夜ねえが、佐々木さんのお母さんにお茶習うてて、大和屋のイベントん時もお世話になったけど、若先生のお点前はステキやて女子高生みたいにテンション上がってたで」
 千雪は五月の陽ざしを受けて輝くような笑みを浮かべた。
「次のドラマはそう面倒なことにならんように、良太が取り仕切ったらええやんか」
「まあ、ゲストがね、ひとみさんってことになってるから、とりあえず女性陣はOKですけど、まだ男性陣のキャストが決まってませんからね」
 本当に面倒なことにならないように、前回の監督と脚本家を組み合わせるつもりはないのだが。
「いやあ、ほんと、次はスムースにいってほしいっすよ。何せ、今かかわってるドラマがまた問題山積みで」
 なるべく思い出さないようにはしていたが、こちらはある意味、『花の終わり』を凌駕するほど前途多難なこと間違いなく、良太はまた頭の上にどっかと重い石がのっかったような思いにふう、とため息をついた。
「あ、『田園』やろ? 内容は置いといても、ええ文章書かはる作家さんやな」
「原作はね、牧歌的でノスタルジックで、北海道の広い大地を思わせる背景描写がいいんですけどね」
「またキャスティングに難ありなわけか。せえけど、主役の宇都宮俊治ってよさげな風なひとやないのか?」
 千雪は明らかに面白がっている。
「宇都宮さんはね、まったく問題ないんですよ。ってか、むしろ、ほかのキャストのああだこうだをまとめる俺の味方になってくれるくらいで」
「そんなにキャスト、問題ありなんか? ドラマを見てる限りでは何もわかれへんもんな、制作側の内情なんて。まあ、工藤さんもおらんくて、一人で悶々とするようやったら、いつでも俺呼び出してええで? やけ酒くらい付き合うし」
 千雪はちょっと良太に同情して言った。
「はあ、ありがとうございます」
 とはいえ、いざ千雪を頼って呼び出したところが、あの、面倒な京助がくっついてくるのは間違いなさそうだ。
 ちょっと、それは勘弁……。
「けど、ほんと、千雪さんも、よくあの横暴な京助さんと付き合ってられますよね」
「それこそ長年の腐れ縁いうやつやろ? まあ、横暴いうたら京助の専売特許みたいなふうに思われてるけどなあ」
 しみじみという千雪に、「ああ、千雪さんもいい加減横暴ですもんね」と良太は軽く頷いた。
「おい、俺のどこが横暴やて?」
 ちょっと千雪に睨まれて、えへ、まあまあ、と良太は苦笑いを返す。

 


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