実は、本谷が主演ドラマの撮影が行われていたスタジオに顔を出していた工藤を迎えに行った際、たまたま良太は聞いてしまったのだ、本谷が工藤に告白するのを。
たまたまそれがトイレで、何故か良太は工藤と本谷が入ってきた時、うっかり個室に隠れてしまった。
そのことは良太の胸の内に収めて工藤にも何も言っていないのだが。
工藤は本谷に対して、「おかしな思い込み」で、「よく男にも告られるがお前の気持ちには応えられない」と返答した。
それは本谷に向けられた言葉だったが、何故か良太の心にもズシリと響いた。
もし工藤が、相手がいるとか好きなやつがいるとか、そんなことを言ってくれていたなら、何となく気分が上昇したかもしれないが。
無論、工藤がそういったところで、それが自分とは限らないのだけど。
何だかまた、あの時のシーンが頭に蘇り、良太はしばし口をつぐんだ。
「良太? お前ちょっと休んだ方がええんちゃう?」
千雪に言われて良太ははたと我に返った。
「あ、いや、本谷、いいかもしれませんね。今、『田園』にも出演してて、そんなに出番は多くないんですが、割といい味出してるんですよ、彼。まあ、『からくれないに』は秋の放映予定ですからね、オファーが入ってなければですけど。スポンサーとかにも打診してみます」
北海道で行われた『田園』の撮影は、問題というほど問題もなく順調に進んだ。
工藤も少し顔を出したが、竹野紗英がいつもとは違って機嫌がよく、工藤にいろいろ話しかけていたのを、本谷がじっと後ろから見つめていた、それを良太が見ていた、ということくらいで。
要は、撮影さえ順調ならいいわけさ。
良太は開き直る。
それに工藤がそんなに撮影に顔を出すとは思えないしさ。
そう自分に言い聞かせて、良太は少しばかり何かが起こりそうな予感を無理やり押し殺した。
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