「何よ、それ、あたしが悪いっていうわけ? あなた、いい根性してるわね」
竹野は良太を睨みつける。
「いや、いくら事実でも言葉の選び方で相手に伝わり方が違うってことですよ」
へらっと口にする良太はじっと竹野をみつめた。
「あなたこそド直球で、世の中渡ってくの苦労してない?」
「まあ、そこは軽く否定するところだろとか、たまに言われますけどね」
「あたしは奥歯にものの挟まった言い方は嫌いなの。マネージャとかうちの社長はもっとオブラートに包んだような言い方をとか言うけど、そういうのダメ」
あの竹野にあんなにはっきりと言い返している、とばかり固唾をのんで事の成り行きを見守っていた周囲は、二人のやり取りに少しほっとしたようだ。
「じゃあ、あたしがきつかったとか言う時は、あなた、教えてよ」
「いや、俺は竹野さんのマネージャーではないので、それは遠慮します」
良太はそう言ってグラスを傾けた。
「あたしの誘いを断るとか、ほんといい根性してるわね」
「何分、鬼の工藤に鍛えられてるんで」
それを聞くとフン、と竹野は持っていたグラスを空にした。
最後の一言は、良太なりの彼女に対する宣言だった。
いや、それは本谷に対しても、なのかもしれない。
工藤が本谷に声かけるとか、クソって思ったのは確かだ。
俺にあんな優しい顔したことなんかないぞ。
工藤って、本谷みたいに思いのほか打たれ強くってヘタクソでも頑張ってるとか、そういうやつって手だしたくなるんだったりして。
俺なんか、もろそうだったし。
案外、男にもよく告られるって、俺や本谷だけじゃないってことかよ。
千雪さんだってそうだったしな。
あの横暴京助が傍で目を光らせてるから今はないにしてもさ。
工藤、あちこちに女いるんだかいたんだか知らないけど、実は女だけじゃないよーん、とかだったりして?
良太は心の中でグチグチといじけている自分がいやになって、グラスを空にした。
「お、良太ちゃん、いい飲みっぷり。あ、こっち、お代わりね」
坂口がすかさず良太の酒を追加オーダーする。
「あたしも!」
隣の竹野もグラスを掲げた。
やがて二人の前に新しいグラスが置かれると、アスカが「ちょっと、良太」とそれを見咎めて声をかけた。
「明日、一緒にスタジオだってこと、わかってるんでしょうね? 寝過ごして遅れましたとか、やめてよね!」
こちらも竹野に負けじとというわけではないが、聞きようによってはきつく聞こえるだろう。
「わぁかってますよ。寝坊していつもギリなのはアスカさんじゃないっすか」
「なーによ、良太ってばナマイキ」
アスカはこそっと言って、目の前のピザを取ってパクっとやった。
アスカはアスカで、竹野が良太に目を付けたのではと老婆心から声をかけたのだが。
「アスカさん、ピザはそれだけにしておきなさい」
今度は秋山からもチェックが入る。
「美味しいのに」
アスカの心配をよそに、「カンパーイ!」と竹野が勝手に良太のグラスに自分のグラスをぶつけると、別に息を合わせたわけではないのだが、竹野と良太、二人してグラスを一気に空けた。
その様子を周囲は何気に見守っていたことなど、自棄気味な二人にはどこ吹く風だ。
「おかわりー!」
竹野が良太の分も勝手に追加オーダーする。
「そういえばさ、あなた前にアスカさんのドラマに出てたでしょ?」
それまでは何とか素面を保っていた良太だが、そろそろ強いアルコールがまわりはじめていた。
「いや、それは、俺の黒歴史っすから、もう、忘れてください!」
「だーって、坂口さんなんか、結構いい線いってたのに惜しいとか言ってたわよ」
「だーから、もう、それはナシ! 俺なんかそれこそ、本谷さんなんか目じゃない、クソミソもクソミソ、ケチョンケチョンに言われましたからね。どのみち代打だったし、俺は番組作る方に進んでるんっす!」
「ええ? やってみたら案外いけるかもよぉ?」
これで数杯目を空けた竹野も出来上がりかけている。
さすがに竹野とケラケラ笑い始めた良太を見た工藤は、思わず、「あのバカ」と口にした。
