四人は上層階にある会議室に通され、ややあって企画広報室次長の中平が現れた。
良太は中平とはこれまでにも何度か顔を合わせたことがあるが、堅く冷たい感じは変わらない。
ついでにいえば、あまり感情をあらわにすることもないから、はっきり言って何を考えているかわからない雰囲気で、どちらかというと良太の苦手なタイプだが、仕事に苦手もクソもないとは、ここ数年、工藤の元で走らされて身をもって認識させられている。
打ち合わせは淡々と進んだ。
物事をはっきり口にする水野あきらをフォローし、佐々木の提示した三つのプランの絵コンテはどれも甲乙つけがたいところを一押しのプランへと話を持っていき、尚且つ、前回東洋商事から提示されたターゲット層や商材の売りポイントなどを競合商品との比較など多角的な視点で分析したデータをもとに藤堂が巧みな弁舌で締めくくった。
こういう時、いつものお茶らけた藤堂はいったいどこへ行ったのだろうと良太は感心するのだ。
撮影の日程は、最初の打ち合わせの際に決めたスケジュールで問題なく進められそうだと、良太は少しほっとする。
「ねえ、撮影終わったら、飲み行こ!」
「そうですね」
エレベーターホールからロビーに出た途端、水野が佐々木に言った。
「あ、もちろん、良太ちゃんも藤堂さんも」
「ついででもご一緒しますよ」
藤堂が答えると、水野はアハハと笑い、地下鉄だからとビルの外に出て行った。
「水野さんてほんと、実はあんな明るい人だったんだねぇ。今回初めて一緒に仕事をするけど、ミュージシャンて生き物はさ、すごく粋がってるか、オラついてるか、極端に自分を殺してるって感じだからねぇ。ああ、イリュミネみたいなうるさいガキ集団ってのもいるか」
良太は何ですか、それ、と笑ってアクセルを踏む。
「水野さんはいい感じだよね。残念ながら僕は視界に入らなかったみたいだけどさ」
「いじけなくても、水野さん、実は気さくな人みたいです。ヤギさんに言わせると気に入った人間じゃないとなかなかしゃべらないそうですけど」
それにしても、水野さん、やたら佐々木さん気に入ってたよな。
それはそれで、ちょっと、気になるところだけど。
ただし、沢村の耳にでも入ったら、こっちまでとばっちりを受けそうなので、黙っておこうと良太は思う。
プラグインで、藤堂と佐々木を降ろすと『田園』の脚本家、坂口から、スタジオを覗くようにも連絡を受けていた良太は世田谷へと向かおうとした。
そのあとは下柳の待つスタジオに籠ることになっている。
「何か、差し入れ、買っていくか」
その時、ハンズフリーにしている携帯が鳴った。
「アスカさん、え、携帯忘れた?」
今『田園』の撮影に入っているアスカからで、オフィスに携帯を忘れてきたからスタジオまで持ってきてと言うのである。
「アスカさん、よく忘れるし、携帯」
アスカは翌日朝には今撮影中のコメディドラマで長野ロケに向かうことになっていた。
良太は仕方なく乃木坂に取って返し、アスカの携帯を持って『田園』の撮影が行われているスタジオへと向かった。
難航した『田園』のキャスティングだが、坂口にごり押しされて結局青山プロダクションの女優二人ともが出演することになり、竹野のクラスメイトで竹野に絡むことが多くなりそうだと思った南澤奈々は、さほど出番もなく、北海道での卒業のシーンとスタジオで二回ほど撮影に及んだくらいで終わったのだが、主役の宇都宮の妻の後輩で大学から宇都宮の病院に派遣されている医師という役のアスカの方が出番が増え、宇都宮の不倫を垣間見てしまうキーマンにすらなってきている。
シーンが増えていることにスタジオでは文句も言わずに仕事に専念するところはプロだ、と良太も思うのだが。
「あたしはきりりとしたナースとか、たまにはやってみたいのに、まーた、我儘な医師役とかよ? 原作にないじゃない、我儘とか横暴とか!」
昨日もオフィスでは言いたい放題だった。
「ハハ、ナースとかアスカさん無理でしょ。もう雰囲気が女王様だし」
また良太が歯に衣着せずド直球で笑う。
「ちょとお、良太、最近、ド直球が過ぎない? 前は相手のこと考えて発言してたよね?」
「相手のことを考えて、発言してますよ」
へらっと返す良太に、「まったく、ド直球ってよりナマイキが過ぎない?」とばかり、アスカはツンとすまして紅茶を飲んだ。
「ここんとこ、さすがに疲れてるんだろう。今更アスカさん相手に考える余裕なんかないんだな」
タブレットから顔を上げた秋山が苦笑していた。
確かに、このオフィスでくらい、ああだこうだと考えたくないというくらい、良太は肉体的にも精神的にもかなりきていた。
梅雨の前のうっとおしい多湿な季節を迎え、気を引き締めていないと風邪を拾ったりしかねない。
栄養ドリンクもビタミン剤も胃腸薬も常備薬と化している。
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