風そよぐ50

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「ハハ……せえけどあれの場合、浩輔ちゃんの描いた絵が受けたんやと思うわ。 今、浩輔ちゃんも何や、メチャ忙しそうにしてるし、助っ人頼むんは無理やろなあ」
「佐々木さん………」
 弱気な発言をする佐々木は本当に疲れているらしいと、良太も慮る。
「浩輔ちゃん、今、ベリスキーにシャカリキになってて。あと、宝石店のプロジェクトが好評で、イベント関連請け負ってるしね~」
 藤堂までが佐々木に同調して、情けなさそうな発言をする。
「邪魔はできひんな~」
 世の中は甘くないとかいう言葉が良太の胸の内を去来する。
 仕事はやはり甘くないのだ。
「まあなあ、ほんまは、俺も何か少し足りない気がしてたんやけどな~、あないはっきり指摘されるとは思わんかった」
「いやはや、宮下さん強し。佐々木さん、その何か少しって、何とかなりますか?」
 ようやく二人とも現実に舞い戻ってきたようだ。
「せやね~、何とかせんとなあ。な、良太ちゃん、何かない?」
「俺に振りますか」
 うーん、と良太もうなる。
 こういう時、工藤なら即座にこれまでの経験値とか情報網とかの引き出しからヒントを出してくるんだろう。
「気いついたこととかない?」
「気づいたこと……ってほどじゃないですけど、しいていうなら」
「しいていうなら?」
「笑顔、笑い、ですかね、子供たちとかの」
 企業のイメージCMだからメッセージ色は強くはないが、テーマの「鼓動―生きていること」はやはり未来へ続くことが大前提だろう。
「大人と子供、っていうかファミリー的なシーンはありましたが、未来へ続くのは子供たちだから………」
「それええね、子供たちのはじける笑顔とか」
 良太が言い終わらないうちに、佐々木が頷いた。
「なるほど、さすが、良太ちゃん! 子供たちのはじける笑顔がラストに来るとか? いやあ、これは、この三人、何かいいかもだよ。俺と佐々木さんと良太ちゃんで、これからもぜひ何かやろうよ!」
 藤堂はいきなりテンションが上がり、こちらもインスピレーションが降りてきたようだ。
 ヒントくらいになればいいが、実際、これから作業をするのは佐々木なのだ。
 佐々木オフィスにも何か差し入れしよう。
 何がいいか、直ちゃんに聞いてみるかな。
 そんなことを良太が考えていた時だ、ハンズフリーにしている良太の携帯が鳴った。
 携帯が奏でるワルキューレに、良太の背中に一瞬緊張が走る。
 ちょうど車は赤信号で停まった。
「はい、お疲れ様です」
「そっちはどうだ?」
 工藤の声が低く社内に響く。
「えっと、今、東洋商事からの帰りで、藤堂さんと佐々木さんと一緒です。少し修正することになりましたが、概ねいい感触でした」
 工藤とは高雄で少し話したきりだが、疲れているせいか、工藤の声が目に染みて、瞼の奥が熱くなりそうになった時に、青信号に変わったので良太は焦った。
 アスカに本谷と工藤のことを白状させられて、再認識したのは、工藤に借りている金を返さなければならないからには、それに今までの工藤への恩義に対してもおいそれと会社を辞めるわけにはいかないということだ。
「ヤギさんとこも、何とか来週にはナレーションを入れてもらえそうな気配です」
「そうか。こっちは明日、高雄で能楽師が入る予定だから、そっちに戻るのは土曜日になる」
「檜山匠さんでしたね。そういえば千雪さんから、撮影に顔を出したって連絡がありました」
「ああ。ちょくちょく顔を出せと言っておけ。………」
 その時、工藤は誰かに呼ばれたらしく、「とにかく気を緩めるな」と言ったかと思うと、電話はいつものごとく、ブチッと切れた。
 そういえば、工藤、本谷とも電話でやり取りしてるんだっけ。
 思い出さなくてもいいことばかりが頭に浮かんできて、心を切なくさせる。
「忙しそうだね、相変わらず、工藤さん」
 藤堂が言った。
「ワーカホリックの典型じゃないですか」
 つい良太はつんけんした言い方になる。
「良太ちゃんがいるから、工藤さんもあちこち動き回れるんだよ」
「俺がいようといまいと関係ないですよ、あの人は……あ、じゃ、また子供たちに集まってもらいますね、追加で撮影されるんですよね?」
 今回のCMのために、良太は下柳のつてで児童劇団の子供たちに撮影の協力を依頼したのだが、何の演出もない屈託のない笑顔を見せる子供たちは見ているだけで楽しかった。
「あの子たち、ええ表情しとったもんなぁ」
 佐々木も良太と同じようなことを考えたのだろう。
 佐々木と藤堂のスケジュールを合わせ、撮影スタッフに問い合わせてから、撮影日をもう一日設定しなくてはならない。
 一番町の佐々木オフィスの前で佐々木を降ろし、プラグインのある青山へと向かう。
「何だか運転手させちゃったね、良太ちゃん」
「いえいえ、どうせこの後ヤギさんとこに行くので」
「何かあった?」
「え?」
「そういう雰囲気だけど」
 藤堂は侮れない。
 人の感情の機微まで読み取ってしまうから、油断がならない。
「何だかあれこれ忙しくて、ちょっと気が休まらない感じなんですよ」
「ふーん。まあ、何か俺で役に立つこともないこともないから、いつでも話を聞くよ」
 良太は適当にごまかしたが、藤堂はまた紛らわしい言い回しで笑った。
「ありがとうございます。じゃ、撮影日、連絡します」
 プラグインの前で藤堂を降ろすと、良太はゆっくりハンドルを切った。
 部屋に戻ってきたのは午後十時を回った頃だった。
 それでも今日中には帰ってこられたし、とにかくシャワーを浴びたかった。

 


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