空はやっぱ青い42

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 十時を回ったところで秋山がお開きを言い渡し、俳優陣、スタッフ陣ともどもおぼつかない足取りで階下へと向かう。
「忘れ物、ありませんか? 階段気を付けて降りてください」
 声を張り上げて誘導した秋山は、各テーブルを回って忘れ物はないか見て回る。
 こういう時、森村がいてくれるとちゃっちゃか動いてくれるのだが、今日は休みなのだ。
「高広、ヤギちゃん、八ちゃんの店、行こ!」
 最後に残った工藤、下柳にひとみが誘いをかける。
「ひとみちゃん、どんだけ飲んだんだよ?」
 表面上はわかりにくいが、ひとみがかなり酩酊状態だと下柳が見て取った。
「はあ、焼酎とビールと日本酒と、どんだけ飲んだんだか」
 須永が恐縮そうに答える。
「俺も一緒に送るから」
 まだしゃきっとした顔で天野が言った。
「うう、助かります!」
 拝まんばかりに須永が頭を下げる。
「天野、明日も撮影だろうが。大丈夫か? 船岡さんは迎えに来てくれるのか」
 工藤が天野らのやり取りを聞きつけて声をかけた。
「いえ、今日は自分で帰るって言ってあるし、酒、強いんで平気です」
 人の世話なんかやいていないで自分の仕事だけしておけ、と、こんな時大抵工藤なら言うだろうところだが、天野に関しては余計なことだという気がした。
 良太と同い年というが、演劇畑でもまれてきたせいか、飄々として、しかし自分の軸をきっちり持って地に足がついている。
 むしろ最初は不愛想で孤立しそうなようすだったのを工藤は懸念していたが、ここのところ俳優陣スタッフともどもとうまくやっている。
 ひとみとはオンオフともにいい相棒になってきている。
 そのせいもあるのか、芝居に乗っているようだ。
 たまにオーバーアクションがあるくらいだがそれもご愛敬かも知れない。
 せっかくうまく波に乗っているところへ、いらぬ苦言はマイナスにもなりかねない、工藤はひとみに肩を貸して階段を降りて行く天野を見送って、テーブル席で膝をついている秋山を振り返った。
「携帯二個、忘れ物です。あ、これ、端田さんのじゃないかな」
「マネージャーに連絡をいれてやれ」
「はい」
 秋山は既に清算も済ませており、工藤の後を追った。
 タクシーを数台呼んでおいたので、先に店を出た者から乗り込んでもらうよう、女将に頼んであった。
 こういう時、大抵良太がすべて取り仕切っていたわけで、それ以外に俳優陣のあれやこれややスタッフ陣のああだこうだまで取り合って、細かいフォローをしていたことを考えると、やっぱり会社は良太がいないと回って行かないぞ、と、秋山はあらためて思うのだ。
 外に出ると、タクシーに乗る白河に手を振っているアスカをみつけて、「アスカさん」と秋山は呼んだ。
「大丈夫ですか?」
「あたし、そんなに飲んでないもん」
 アスカは振り返って笑った。
「随分白河さんと話が弾んでましたね」
「うん、なんかさ、彼女、今の仕事で我に返ったとか言ってたよ?」
「はあ」
 アスカの言葉ですべてわかったというわけではないが、どうやら白河はこの仕事で、俳優としての自分を見つめ直したということだろうと、秋山は察した。
 最初はおそらく工藤が声をかけてくれたからこそ、オファーを受けたのだろうが、イロコイよりも芝居に重きをおいているようだ。
「ほら、ひとみさん、もうちょっと待って、寝ないで」
 後ろでは須永と天野に両側から支えられたひとみが、「うるさいわねえ、八ちゃんの店、行くわよ!」と声を上げた。
「ああ、また今度な」
 下柳が笑いながらそれに答えた。

 


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