次に滑り込んできたタクシーのドアが開くと、天野がひとみをとにかく座らせ、逆側に回って自分も乗り込んだ。
助手席のドアを開けた須永の背後から、「悪いな、ひとみを、よろしく頼む」と工藤が天野に声をかけた。
「了解です!」
天野がはきはきと返事をすると、「お前も気をつけてやってくれ」と工藤は須永にも念を押した。
三人を乗せたタクシーが走り去ると、次に来たタクシーにアスカが乗り込んだ。
「東洋商事、結構たったか決まりそうだ。頼むぞ」
工藤が言うと、「わかってます。お先に失礼します」と秋山がアスカの隣に乗り込み、タクシーが走り去った。
すると、ふわあと欠伸をした下柳が、「東洋商事のCMだっけか?」と工藤に尋ねた。
「ああ。まだここだけの話だが、アスカと沢村のキャスティングに、良太も加わることになった」
もう一つ大きな欠伸をしようとした下柳が、口を開けたままとまった。
「なんと! ああ、ひょっとしてパワスポのあれでか?」
それだけで下柳が何を言おうとしたか工藤は察した。
「良太は拒否るつもりだったが、案件が紫紀さん主導になったからな。否が応でもやらざるを得ないだろう」
「ふーん。沢村とだろ? パワスポの、あのまんまやればいんじゃね?」
事も無げに下柳は言った。
「あれだな。良太ちゃん、いざとなれば、おおって力発揮する子だし、まあ、お前は見守ってやるっきゃねえな」
笑いを含んで言う下柳を、工藤はフン、と鼻で嗤った。
ちょうど来たタクシーに下柳は乗り込み、「そいじゃ、お先」と走り去った。
「何しに来たんだよ」
工藤はまた苦笑し、タクシーを止めた。
時刻は十一時になろうとしていた。
タクシーが走り出すと、工藤は携帯を取り出してコールした。
「東洋商事、何か言ってきたか」
「おはようございます。はあ、明後日、支社でのミーティングの前に、今夜あたり佐々木さんとリモート参加の藤堂さんと打ち合わせの予定です」
向こうは朝の八時くらいだろうと、呼び出した良太は事務的に告げた。
「決まったら、アスカのスケジュールを押さえる」
「はい、わかりました」
良太の返事が聞こえたところで工藤は電話を切ると、シートにもたれかかった。
映画の撮影が順調なのは救いだが、さすがに疲れていた。
まあ、良太は何のかの文句を垂れても、何とかやるだろう。
面白くなさげな声だったが、元気はありありな感じだ。
良太を研修に誘った担当のフランコが電話をくれたが、良太は思いのほか、アクティブに楽しんでやっていると言っていた。
あとひと月、少しは成長してるだろうと、工藤はそれは楽しみでもあるのだが。
一方ニューヨークでは、また前触れもなく電話を切った工藤に、「ったくあのオヤジは!」と良太はひとしきり文句を口にしていた。
「あっち」
カッカしながらコーヒーを飲んで、慌ててカップを離す。
「ったく、あのオヤジのせいだっ!」
と勝手に責任を押し付けると、ベーグルを齧り、良太は部屋を飛び出した。
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