それからのことは順を追って思い出しながら頭の中で整理していくしかなかった。
オースティン警部に尋ねられると、良太はゆっくり確認しながら話した。
「ベンが振り返った時、あなたは駆け寄ったんですね」
「はい、そしたら奥の方に人が倒れていて、咄嗟に助けなけりゃと思ったんですが」
そこで良太は言葉を切った。
「その人は目を見開いていたので、足が竦んで、そこでジミーに腕を引かれて、行かない方がいい、と言われて戻りました」
本当なら既に撮影が始まっているはずだった。
ディレクターを兼ねているベン演じるサンダースが部署に呼び戻され、上司であるウイリアムズ警部にくってかかるのを、同僚のドミニクが揶揄し、あわや乱闘騒ぎになる、といったシーンの撮影だった。
ところが、レイチェル・ゴードンの悲鳴に何事だとやってきたのは良太とジミーだけではなかった。
そこには両手だけでなくシャツからズボンから血まみれのベンが突っ立っていた。
しかも手にはナイフが握られている。
冷静に警察を呼んだのはジミーだった。
目を見開いて仰向けに横たわっていたのは、ドミニク役のデビッド・コールだった。
演技でもなんでもない、大きな血だまりの中で身動きひとつしない。
喧噪の中、本物のNYPDの鑑識や刑事らがやってきてあちこち調べ始め、デビッドは既に亡くなっていると検視官が告げた。
「死後一時間ちょっとといったとこでしょう」
血だまりは乾いておらず、遺体は死後硬直が始まっていた。
ベンは後ろ手に手錠をかけられて初めて我に返ったように、「待て、俺じゃない!」と喚いた。
だが、オースティン警部の部下のパウエル巡査部長に促がされてベンはスタジオから連れ出された。
血まみれでナイフを手に持っていたという事実は誰の目にも明らかなように見えた。
「またお話をお聞きするかと思いますのでよろしく」
良太とジミーにそういうと、オースティン警部はやがて引き上げていった。
ジャケットにパンツスタイルで颯爽と去って行く金髪の美人警部だ。
しかも背が高くて低いヒールを履いていたが目線は良太と変わらなかった。
うう、ニューヨークは上司が妙齢の女性って決まってるんだろうか。
良太は愚にもつかないことを心の中で呟いた。
スタジオはまだ鑑識が居座っており、ドアには立ち入り禁止のテープが張り巡らされていた。
駆け付けたプロデューサー陣は頭を抱えていた。
「良太が見つけたんだって?」
フランコは難しい顔で良太に聞いてきた。
「ジミーと俺が。最初に、レイチェルが叫んだので何ごとかと思って」
「それで、ベンがデビッドを殺したって言ったのか?」
「とんでもない。何も言わずにただ立ってて、レイチェルが座り込んでて」
良太がはっきり否定すると、フランコはますます眉間に皺を寄せた。
「前代未聞だ、こんな話。確かにベンとデビッドはよくぶつかってはいたが」
良太とジミーは顔を見合わせた。
「何を言っても仕方ない。スケジュールを変更するしかないだろう。君らも今日は帰っていいよ」
帰っていいと言われた良太とジミーだが、とりあえずスタジオは出たものの、足取りは重い。
「ベンが殺したんだろうか」
「俺はやってないって言ってたじゃないか!」
ジミーがぼそりというのに、良太はつい声を荒げた。
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