空はやっぱ青い51

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 あと一カ月、研修と東洋商事のプロジェクトに全身全霊で臨むぞ、と気合を入れて良太は月曜の朝、ネットプライムに向かうべく地下鉄に揺られていた。
 ちょうど会社の手前に来た時ジミーから電話が入った。
「オフィスのコーヒー壊れちゃってて、もしまだ外ならコーヒー買ってきてくれないか」
「わかった。ブラックでよかったよね?」
「そう。おごるから」
 良太はいつも会社の前に止まっているコーヒースタンド、日本でいうキッチンカーでコーヒーを二つ買い、会社のエントランスへと向かう。
 ここのコーヒーは安くてそこそこの味なのだ。
 オフィスのコーヒーはお世辞にも美味いとは言えず、それでも一息つくにはなくてはならないものだが、最近マシンの調子が今一つだったところが、ついに壊れたらしい。
「なんか今、チーフとボスがコーヒーが壊れたって小競り合いしててさ」
 エレベーターがオフィスに着くと、ジミーが待っていた。
「ああ、コーヒーないとみんなイラつくもんな。壊れかけてたんだから早いとこ換えればよかったのに」
「まったく、みんなコーヒー中毒だよ」
 良太は笑った。
「今日、F3スタジオだったよな? とっとと行こうぜ」
「ああ、そうだな」
 今日は地下スタジオで、先日のクライムサスペンスドラマの撮影が入っていた。
「俺ら十時からだっけ。まだ三十分以上あるけど、ま、先に行ってよう」
 ジミーに言われて良太は下りエレベーターに乗った。
 F3階は、一番大きなスタジオで、現在主演のベン・タイラー演ずる刑事が所属する組織犯罪対策課のフロアーとして大がかりなセットが組まれている。
「今日はレイチェル・ゴードンが来るはずなんだ」
「人気あるよね、彼女。キュートで知的で」
 ニューヨークに来る前から人気俳優のレイチェル・ゴードンが出ている番組は見たことがあった。
 ジミーだけでなく、良太も会えるのを楽しみにしていたのだ。
 エレベーターを降りると天井の高い広い空間があり、いくつかのドアは倉庫や控室となっている。
 何人もの人影がセットのドアの向こうで撮影の準備をしているようだった。
「広いよな、このスタジオ」
 良太とジミーが本物の警察署内のようなセットに向かって歩こうとした、その時だ。
 高音の凄まじい声が響き渡ったのだ。
 つんざくようなそれが女性の悲鳴らしいとようやく良太は気づいた。
「え、何?」
「セリフ……とか?」
 ジミーが首を傾げた。
 だが、次の瞬間物陰から人が後ろずさりで出てきたのだ。
 二人は足を止めた。
 出てきたのは、さっきから話していた、ざっくりとした白いシャツにデニムをはいたレイチェル・ゴードンだった。
 え、撮影、じゃないよな?
 良太は漠然と思った。
 レイチェルの表情は真っ青で、口をあけているが言葉を発することを忘れているような感じだった。
 そしてさらに足音がして、誰かが出てきた、と思いきや、ベン・タイラーで、血まみれの手にはナイフがあった。
「ベン!」
 思わず叫んだ良太の方を、ベンがゆっくり振り返った。

 


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