その夜、十時になると、良太は工藤に電話を入れた。
東京は今昼頃のはずだ。
意外にもコール三回で、工藤が出た。
「お疲れ様です。今、電話いいですか?」
「ああ、何だ」
珍しく穏やかな声だ。
「東洋商事のミーティングで、ほぼ方向が決まりました」
おそらく既に藤堂からも報告が行っているだろうと思いつつ、現実の三人のキャラを使ってドキュメンタリー風な自然な会話をメインに、佐々木のプランからドローンを使って東洋商事ビルの屋上、マンハッタン、セントラルパークなどを撮影して絡ませる、といった内容を良太はかいつまんで話した。
「こっちにいる間に、準備は整えておくつもりです。沢村のスケジュール次第ですが、七月のオールスターのオフ以外にも予備日を早めに決めてもらいます」
「焦らなくていいぞ」
「あ、はい。万が一のトラブルにも対応できるように、何か考えないと」
アスリートは身体が資本だ。
怪我なども考慮しておかないと、と良太は思う。
「沢村が万全であることが一番いいんですけど」
「お前もだ。くれぐれも事件なんかに首を突っ込むなよ」
「やめてくださいよ、千雪さんじゃあるまいし」
「地下鉄で事件に遭遇したらしいじゃないか」
そんなこともニックは報告しているのか、と良太は思う。
ま、当然か。
確かに、良太が野次馬根性で何があったのか見ようとしたら、ニックに腕を引かれてその場を離れたのだった。
「や、近寄りませんよ、そんな」
「フン、ぽやんとした顔で眺めてると、事件に絡まれるぞ」
「誰がぽやんですか!」
工藤は笑う。
「まあ、とにかく、肩の力を抜け」
「わかってますよ」
最後は工藤の笑いで、電話は切れた。
いつものようなブチっといきなりではなかったので、何となく名残惜しい気がして、良太はしばし携帯を持ったまま、ふッとため息をついた。
「何か、妙に気遣ってくれてるみたいじゃん」
じんわりと良太の胸の奥が温かくなる。
食事なんか、絶対取ってなさそうじゃん。
笑ってごまかしやがって。
会社だったのかな。
「工藤こそ忙し過ぎて、俺を気遣ってくれるより、自分を気遣えよ! いい年なんだから」
良太はひとり口にして、シャワーを浴びに行く。
「あと一月切ったなあ」
いつの間にか時間は過ぎている。
きっとひと月なんてあっという間だ。
いろいろきっちりやらないと。
「踏ん張りどころだぞ! 良太!」
良太は決意も新たにして、鏡の中の自分にはっぱをかけた。
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