空はやっぱ青い53

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「でも、状況的に見てもナイフ手に持って血まみれって、否定する方が難しくないか」
 確かにジミーの言う通りだとは思うのだが、良太としてはベンが人を殺せるような人間には思えなかった。
 思いたくなかったというのが本当のところかもしれないが。
「良太」
 その時、すかさず近づいてきたのはニックだった。
「この後のスケジュールは?」
「ああ、今日のところは帰っていいって言われた」
「そうか。じゃあ送ろう。ジミーも乗っていくか?」
 ニックは顔見知りになったジミーも誘ったが、「あ、いえ、俺は寄るところもあるし」とジミーは遠慮した。
「あれ、今日、車で来たっけ?」
 良太は車に乗り込んでからハンドルを握るニックに聞いた。
 確か今朝は地下鉄に乗った良太をニックも数歩遅れてついてきていたはずだった。
「何かの時のために、近くに置いている」
「あ、そ」
 何というか鉄壁過ぎるガードだと良太は思う。
 どこかのお偉いさんじゃあるまいし。
 車は頑丈なベンツのステーションワゴンで、五人は軽く乗れそうだ。
「事件に首を突っ込むな」
 案の定また言われた。
 スタジオでの事件のことは、どれだけ厳戒態勢をしいたところで、どこからか漏れたようで、既にニュースやネットで流れている。
 ましてやニックは社内で仕事をしていたので、早退して良太を待っていた、のだろう。
「突っ込んでない。遭遇しただけだって」
 ニックはそれ以上言わなかったが、良太は心の中で、過保護過ぎ、とこっそり思う。
ただ改めて考えてみると、ベンが人を殺すような、ましてやスタジオなんかで事件を起こすような人間だとは思えない。
たかだか三か月にも満たない知り合いだが、ベンとは色々話もしたし、ディレクターとして物事を全体的に、俯瞰的にも見ている、穏やかな気性の人だ。
確かにデビッドと口論をしていたのを良太も見ているが、あくまでも演技上でのことで、人を殺すような動機などどこにもないと思うのだ。
部屋に戻った良太は、いつもより早く帰されたことで、時間が空いた。
 夕食には早いし、スウエットに着替えた良太がしばらくやっていなかった洗濯や掃除をするかと動き始めた時、ポケットで携帯が鳴った。
 ワルキューレだ。
 おそらくニックから今日の事件のことで工藤に報告がいったに違いない、と良太は思った。
「別に首を突っ込んでませんから」
 工藤の声が聞こえると、良太は何も言われないうちにとそう切り出した。
「あたりまえだ。お前に残された時間は一か月もないんだ。自分の与えられた仕事をきっちりすればいい」
 やはりニックは律義に報告をしているらしい。
「だからわかってますって」
「アスカのスケジュールも決まった」
 しばらく東洋商事のCMのスケジュールについて沢村側のスケジュールとのすり合わせをした後、「食事はどうしてるんだ」と工藤が聞いた。
「え、大抵、ニックが買ってきてくれたり、佐々木さんらと一緒に食事したりとか」
「フーン。ま、ひとりであちこちウロチョロするな」
「ウロチョロしてもニックがついてますよ。それより工藤さんこそ、ちゃんと食事取って下さいよ」
「わかったわかった」
 そういうと電話が切れた。
「まったく、人の食事の心配するんなら自分でちゃんと飯くってからにしろよな」
 思わずそんなことを口走った良太だが、工藤が心配してかけてきてくれたことがちょっとばかり嬉しい良太だった。

 


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