真夏の危険地帯11

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「お騒がせしている先日のライブはGENKIとしてもベストだったと思っています。おそらくファンの皆さまにもご満足いただけたのではないかと思います」
 しばしノスタルジックな気分に浸っていた元気は、聞き覚えのある声にふっと我に返り、画面に目をやった。
 ブランド物のパンツスーツを着こなし、すっかり実業家然とした涼子が、Gコーポレーションの自社ビルの前でたくさんのマイクに囲まれている。
「ですが、飛び入り参加してくれたギタリストはあくまでも純粋に音楽が好きなだけなんです。これ以上詮索されると、二度と彼がステージに立つことはないと思われます」
 きっぱりと言い切った涼子の言葉に、胸を撫で下せるかと思いきや、つまり次もあると宣伝しているということではないか、と元気は思い当たり、後ろで糸を引いているのだろうみっちゃんの喰えない性格に呆れかえる。
 それにしてもワイドショーまでがこんな話題を取り上げるとは思いもよらなかった。
 しかもどこぞから去年の赤坂プロダクション関連の事情通でも現れたら、元気のことが知れる可能性もある。
 また眉間に皺を寄せた元気は、さらに頭痛の原因を作った男のことを思い出さざるを得なかった。
 あんのやろう! 調子に乗ってやりたいだけやりやがって!!!
 どうしようもないイラつきを、ついそっちに向けてしまう。
 健気に元気が散歩に連れて行ってくれるのを待っていたリュウと一緒に表に出て川べりを歩きはじめると、昨夜のことが次々と脳裏を走る。
 そもそもこんな時間になったのも、やつのせいなんだ!
 昨日豪が再び伽藍に顔を見せたのは、もう店じまいをする間際のことだった。
「リュウの散歩行ったら、メシ、行こう」
 豪がボソッと言った。
 豪の住む町への沿道に古民家を改造した居酒屋がある。
 最近豪が見つけたその店のオーナー兼板長とは同じ古民家に住む者同士で意気投合したらしい。
 路傍という名のその店の二階に家族と住むオーナーは四十代、元商社マンで十年ほど前この地を気に入って関東から移住したというところも、豪と話が合った。
 メニューは酒に合うつまみがメインで、素材を活かしたいい味を出している。
 親しくなるとちょっとした家庭料理も作ってくれるので、そっちを目当てにやってくる常連客も多い。
 豪に連れられて店を訪れた元気も煮物や玉子焼きなどの素朴な家庭料理が気に入って、ちょこちょこ通うようになった。
 こうやって飲みに出かけることもあるし、雛子との夕食は、店の時間の関係上、一緒に食べる時だけ元気が作ることになっていて、大抵はそれぞれ都合のいい時間にとるようにしている。
 だから朝帰りになったとしても連絡さえ入れておけば母親が干渉することはさほどない。
 しいて言えば、リュウの散歩の時間だけだろう。
 前もって言っておけば、雛子がリュウを散歩に連れて行くが、雛子は雛子で忙しく、昔からカルチャースクールで生け花を教える以外にも、絵手紙だ、俳句の会だ、ボランティアだ、最近太ってきたのを気にしてかジムなんてのもあったりと元気よりずっとスケジュールが詰まっていて、朝から友達と近くの温泉に入り、モーニングで朝食を食べて帰ってくるなんてこともよくある。
 雛子との関係は昔から変わらず仲は良い方だろう。
 多分、恋人が男だと告げたとしても、雛子はさほど驚かないに違いない。
 のんびりとしているようで、実は元気などよりよほどどんと構えた性格なのだ。
 ともあれ、さっき雛子が二日酔いかと聞いたのには、何も言わないで朝帰りして、しかもリュウの散歩の時間にも遅れるなんて、といういささか叱責のニュアンスが混じっていたのだ。
 全く、あのヤロウのせいだ!
 また怒りの矛先が豪に向けられる。
 大抵、食事のあとは豪の家に行って、ベッドになだれ込むのがパターンになってきている。
 夕べのはしかし、そんな甘いムードはそっちのけで、交わす言葉も少なく豪が突っ走り、力にまかせて元気をねじ伏せてやりまくったのだ、思い出しても腹立たしい。
 そこに豪への思いがなければ、強制性交等罪というやつだ。
 豪は明け方まで元気を離そうとせず、お蔭で身体はガタガタだ。
 一応、豪に黙ってライブに出たことはまずかったと、元気も思っている。
 だが、勝手に一平に嫉妬して、勝手に怒って力ずくは度を越している。
 時々ブツブツと独り言を口にする元気を不思議そうに見上げるリュウに気づいて、元気はやっと笑みを取り戻す。
「ようし、軽く走るか? リュウ」
 ワン、と返事を返すリュウと、既に暑い太陽の陽射しに挑むように、元気は川べりを駆けだした。

 


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