サンタもたまには恋をする4

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「さて、そろそろ本題に入ろうか。まず、君の名前を聞いていなかったね。十二月にギャラリーを借りたいということだが、君が個展を開くのかな?」
 男が大きな饅頭を三つ平らげ、最後の一口を喉につまらせてお茶をゴクゴク飲み干したところで、向かいに座っていた藤堂は切り出した。
「俺は五十嵐悠。俺が個展やるんだ。前に、先輩がここでやった時、割と気に入ってたんだよ、ここ。外からも見えるし」
 五十嵐悠と名乗った男は完結明瞭に答えた。
「なるほど。君は美大生かな? シャツの絵具から察するに作品は油?」
「そうだ。十二月の第一週なんて、借り手が少ないから空いてるんだろ? だったら、少しくらいまけてくれって言ってるんだ、俺は」
「半額にしろって言うんですよ、この人。前金なしの後払いで。それも三階と四階、二フロアセットで」
 あくまでも横柄なその態度に、啓子がすかさず口を挟む。
「二フロアで? 一フロアだけなら、条件によっては考えてあげてもいいが」
「でかいの並べるんだから、一フロアで足りるわけないだろ」
 当然のことのように悠は主張する。
「こちらもボランティアでやってるわけではないからね。五十嵐くん、このスペースで二フロア四十万というのは、良心的な方だと思うが」
 藤堂の冷静な言葉に、悠はちっと舌打ちして立ち上がる。
「わーかったよ、邪魔したな」
「まあ…………、企画という手もある」
 悠は立ち止まった。
「その場合、作品が売れたらその四〇パーセントをギャラリーに入れてもらうことになっている。ただし、売れなかったら規定どおり使用料は全額支払ってもらうことになるが」
 悠は仁王立ちになって、藤堂を見下ろした。
「……売れたら? ま、いっか、じゃあ、その条件ならやらせてくれるんだな?」
 藤堂はじっと悠を見つめてほくそえむ。
「そう簡単にはいかないんだよ、五十嵐くん。うちでやりたいなら、写真でも何でも君の作品はこれだとわかるデータを用意して、社長のいる時にアポを取って出直すことだね」
 誰が聞いてもまっとうな理屈である。
 悠は拳を握りしめて唇を噛んだ。
「わかったよ! 持ってくりゃいいんだろ?」
 踵を返して、悠はドアに向かう。
「ああ、五十嵐くん、アポイントは名刺に書いてある僕の携帯の方へね。それから」
 振り返った悠に、藤堂は続けた。
「顔は洗ってきた方がいい」
 悠はそれこそ顔を真っ赤にして藤堂を睨みつけた。
「………ごちそうさんでした!」
 バッターン!!
 思い切りよく閉められたドアがしなる。
「わー、スカッとしたー! さすが藤堂さん。もうあんなバッチィのきて、どうしようかと」
「身なりで判断しちゃいけないよ」
 藤堂は息巻く啓子を柔らかくたしなめる。
「だってぇ、それだけじゃなくて横柄で、礼儀知らずで。今時の学生ってほんとバカなんだから。藤堂さんのことおっさんとか言うし」
 おっさん……ね、三十の坂を越えればそう言われるのも致し方ないか。
「まあ、あれで結構いい作品を作るアーティストかもしれないじゃないか」
「そんなことあり得ませんね」
 茶器を片付けながら啓子は冷たく言い切った。
 それにしても妙な巡り合わせだ。
 何となくだが、おそらくあの横柄なガテンボーイはおそらくまた現れるに違いない。
 これはちょっと楽しみになってきたぞ、とつい先ほどまで抱えていた傷心も忘れて思わずにんまりとする藤堂だった。

 武蔵野は吉祥寺に広いキャンパスを持つ、東京美術大学。
 校舎を取り囲む木々の間をぬって冷たい風が吹き抜ける頃になると、学生たちもついこの間まで太陽にさらしていた肌を、色とりどりの温かそうなセーターやジャケットで包んでいる。
 そんな中、長袖とはいえぺらぺらな薄さのシャツ一枚の学生が風を切ってキャンパスを闊歩していた。
 肌が白いため健康的とは言い難く、周りの目にも寒々しく映る。
「おい、ハル! 悠ってばよ!」
 後ろからバシッと肩を叩かれ、悠は前につんのめりそうになった。

 


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