サンタもたまには恋をする10

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「ハルちゃん、バイト行ったの? あんなヘロヘロで」
 悠とすれ違った悦子が心配そうな顔でアトリエに入ってくる。
「だよなー。あいつ、無茶ばっかしやがる」
 オブジェを前にペインティングの用意をしながら、高津は首を振る。
「携帯鳴ってるよ、高津」
 悦子に言われて慌てて筆を置き、高津はポケットから携帯を取り出した。
「は? 藤堂? ああ、ギャラリーの。今さっき、悠のやつバイト行っちまって」
 案内状の初校が出たことにかこつけて、悠のようすが知りたいと、藤堂は高津に連絡を入れてみたのだが。
「アパートを借りる予定? 今んとこ、無理ですね。滞納してた授業料払うのに借金したみたいで。それにあいつバイト代、ほとんど画材とかにつぎ込んでるから」
 高津から悠のバイト先を聞いた藤堂は、電話を切ってから、うーんと唸る。
 悠が祖父母を亡くして天涯孤独の身であることや、家賃を溜めてアパートを追い出され、今は高津の部屋に転がり込んでいることなどもついでに聞き出したのである。
「ちょっと出てくる。何かあったら携帯に頼む」
 このところの藤堂は、いつにもましてテンションが高くアクティブだ。
「新しい恋人でも、できたのかな?」
 浩輔はオフィスを出る藤堂の背中を見ながら呟いた。
「原宿駅近くの工事現場って言ってたな」
 悠が場所が変わったから遠くなったと呟いていたと高津から聞いた藤堂は、夜の街をゆっくり車を走らせた。
 場所は近いが、何やら嫌な予感がする。
 今夜は十二月中旬の冷え込みだという予報どおり、急激に気温が下がったようだ。
「いや、ちょっと無理してるんで、心配なんっすよね。あいつ、薄着で飛び回ってるし」
 高津の言葉からも悠のことが気がかりなのが伝わってきた。
「ったく、あの坊やはしょうがないな」
 それらしい現場の近くで車を停め、悠を探すと、いくつものライトに照らされて、見覚えのある黄色いバンダナの頭が頑強そうな男たちの中に混じっていた。
 車を降りて近寄ろうとした藤堂の目の前で、悠のからだがゆらりと揺れた。
 

 キュンキュウンと、聞き慣れない声が耳元でする。
 あれ、ここ、どこだ?
 がばっと飛び起きた悠は、目の前がくらついてまたベッドに倒れ込む。
 高津の部屋にしては違和感がある。
「どうだい? 気分は」
 再び目をあけた時、やっと藤堂に気づいた。
「あんた…なんで……?」
「おかゆを作ってみたんだ。少し食べてみるかい?」
 トレーの上で湯気をたてているおかゆを見ると、藤堂の言葉を最後まで待たず、悠は起き上がって食べ始めた。
 一人用の土鍋も、梅干も、電気ポットや食料品と一緒に藤堂が慌ててさっき買ってきたものである。
 火事にあったマンションは未だ手つかずのままだ。
 食器類などはかろうじて使えそうだが、取ってくる暇もない。
 奥の寝室に何とかベッドは調達したものの、あとは紙袋に入ったままの下着類や河崎からもらったスーツとシャツが十着ほどパイプハンガーにかかっているきりだ。
 リビングには、アイちゃんグッズとフローリングの床にじかに置かれたノートパソコンがあるだけで、ガランと無闇に広く見える。
 きれいにかゆを平らげた悠は、ようやく藤堂に向き直った。
「で、なんで俺、こんなとこにいるんだ?」
 藤堂はついつい失笑する。
 とりあえず食べてからというおおらかさがいつもながらいい。
「ポスターや案内状の初校が出たから君に見てもらおうと思って高津くんの携帯にかけたんだ。バイトだって聞いて行ってみたらまた君が倒れたんだよ。しかも熱があったんだ…」
 どれ、と藤堂が悠の額に手を当てる。
「熱なんかない!」
 思わずその手を払いのけ、悠は強がって見せる。
「まあ、それだけばくばく食えれば大丈夫かな。高津くんの家ももわからないし、うちに連れてくるのが手っ取り早くてね」
「なんでそんな余計なことすんだよ! バイトクビになったらどうしてくれんだよ!」
 思いがけない事態に悠は礼を言うどころか、藤堂にくってかかる。
 悠の上気した頬が紅く染まり、Tシャツからのぞく肌の白さとあいまって妙になまめかしい。
 ガテンバイトにはあんまり似合わないじゃないか。
「とにかくバイトは当分禁止だ」
「あんたにそんなこと命令される覚えはない!」
 悠は即座に言い返した。

 


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