サンタもたまには恋をする18

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 オープニングには美保子がパーティを開いてくれたのだが、そんな盛大なものになるとは、悠は予想していなかった。
 ドレスアップした紳士淑女がわんさか押し寄せたからだ。
 大学のアトリエに案内状をひと包み置いてきたものの、これではクラスの仲間がきてくれても気後れしそうな雰囲気だ。
 夕方近くになるとギャラリーの顧客はもとより、プラグインの関係者や友人知人たちまでが集まってきた。
 搬入を手伝ってくれた浩輔とは、同じ絵を描く仲間とわかって、悠は前からの友人のようにタメ口を聞いていた。
「ステキねーーー、空に吸い込まれそう」
 招待客のうちの一人、直ちゃんと呼ぶ女の子と浩輔は仲がいいらしく、二人で何か話しながらコロコロと笑っている。
 遅れて現れた藤堂はすぐさま人に囲まれ、顔を合わせたら、こう言おう、なんて考えていた悠は出鼻をくじかれた。
「あ、いたいた藤堂ちゃあん」
 大きく胸のあいたミニのドレスでいきなりやってきてその藤堂に腕を絡ませたのは、女優の長谷川美香だった。
「わざわざありがとう、美香ちゃん」
 にっこり笑った藤堂は、あくまでも紳士的な態度でシャンパンの入ったグラスを渡す。
「藤堂ちゃん、また今年もプラグインでクリスマスパーティやるんでしょ? 楽しみにしてるからねっ、サンタさん!」
 美香が周りに愛想を振りまきながら奥の方に行くと、今度は浩輔といた女の子が藤堂を見つけて駆け寄ってきた。
「もちろんさ、直ちゃん! 任せなさい!」
 藤堂の視線の先には、客から質問攻めにあい、仏頂面でぞんざいに返事をしている悠がいた。
 ふいに悠が顔を上げた。
 藤堂の視線に絡む悠の瞳が揺れる。
 なんともいえない、頼りない表情を垣間見た気がして、藤堂はすぐにも傍に向かおうとしたのだが、今度は馴染みのギャラリーのオーナーにつかまった。
 誰か、何か聞いてきたが、悠の意識はぼんやり藤堂へと向かっていた。
 そういえば初めて藤堂と会ったあの夜、持っていたシュークリームは誰にやるつもりだったんだろうと、何気なくテーブルの上に並んだシュークリームに手を伸ばした悠は思い起こした。
 しかもあんな豪華なバラの花束……恋人以外にないじゃん。
 何て迂闊だったんだろ。
 俺ってバカ。
「よう、すっげーな、びっくりしたぜ」
 背後から声をかけられて振り返ると、見慣れた顔が二人立っていた。
「高津、悦子…」
「大先生の展覧会みたい」
「バカ言え……」
「でも、ここ借りるの高いんじゃない? 大丈夫なの? ハルちゃん」
 高津と一緒にラフな格好でやってきた悦子がこそっと聞いてくる。
「けどあれ、売れてんだろ? 上の階のやつ。赤丸ついてたし。号一で計算しても……」
「うそっ、どれよ?」
「犬とオッサンの絵だよ」
 高津の言葉に、悦子だけでなく悠も耳を疑った。
「ほんとかよ?」
「何だ、お前も気づいてなかったのか?」
 悠は慌てて階段を駆け上がる。
 メインの絵の前は人だかりになっていた。
 人垣の間からのぞいてみると、確かに赤丸がついている。
 三階の作品群はテーマを『蒼』として、ビルの屋上に立つ男を始めとして主に空をモチーフとする、大学でずっと描きためていた絵が、四階には共通するモチーフは海とする、横たわる老夫婦やアイちゃんを描いた絵が『生きる』というテーマに沿って並べられている。
 そのメインに置かれているのが悠の最新の作品で、開け放たれた窓の向こうに海を臨み、ソファに寄り添って眠る藤堂とアイちゃんを描いた一五〇号だ。
 表現したかったのは温かさ、だった。
 生きていることの温かさ。
 描いてしまえば、どうとらえるかはそれを見る者次第だ。
 だから、藤堂がこれを見てどう感じるのかも、藤堂次第なのだけれど。
 悠は絵の傍らで、大柄な中年男性と談笑している美保子を見つけ、声をかけた。
「あの絵もほんとはギャラリーで買うつもりだったんだけど、買ってくださったの、義行さんなの」
「え……うそ…」
 悠は呆然と立ち尽くす。
「あら、売れたんだ、よかったわね」
 振り返ると、黒のチャイナドレスを身にまとった女が立っていた。
 いつぞや、藤堂の部屋に現れたさやかだった。
「でも、これは、藤堂さんが……」
 そこまでしてもらうわけにいかないのに。
「人にとられないうちにってわけね、素早いこと」
 さやかは小ばかにしたような口調で言った。

 


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