「啓、今どこや」
男たちの車を追っている啓から辻に電話が入った。
「わかった。気づかれんなや」
辻は携帯を切ると、「山ン中、入ったて。奥多摩やな」と言った。
「啓のダチが二人合流するいうとる。助っ人は一人でもようけおった方がええからな」
辻の言葉が良太の胸に重く響く。
「腕に自信があるやつならな」
黙って運転していた京助が付け加えた。
良太はクソ、と思う。
確かに、京助と辻は腕に自信がありそうだ。
千雪もそれこそ竹刀でなくても傘とかでもあれば有段者だというし。
俺なんか沢村と取っ組み合ったっつっても、せいぜいガキの頃だしな。
とにかく直ちゃんさえ無事なら、絶対やつらの尻尾を抑えてやる!
良太が心の中で密かに自分を鼓舞していると、携帯が鳴った。
「あ、谷川さん!」
「今、奈々ちゃんを自宅に送り届けたところだ。どうだいそっちは、何か掴めたか?」
「えと、それが、……………実は今、犯人らしきやつらを追ってて」
明日は奈々をまた迎えにいかなくてはならない谷川だとわかっていたので、躊躇したものの良太は言った。
「奥多摩の方へ向かってるらしくて。今携帯に位置情報を送ります」
「わかった。俺も追いかけるよ」
谷川は短い言葉を返すとすぐ電話を切った。
奈々の自宅のある八王子から奥多摩まで約一時間。
谷川は身内の問題さえなければ今も現役の刑事だ。
しかも殺人事件などを扱う神奈川県の捜査一課にいたのだ。
直子のことは伝えそびれたが、心強い助っ人になるはずだ。
いや、強心臓は直子か。
良太は直子の強い目力を思い浮かべた。
以前、藤堂と一緒に佐々木を探していた時も、直子は終始強気だった。
大丈夫だ。
GPSを頼りに俺らが来るの待ってる。
ってより、真犯人を捕まえるためにおとりになっているつもりなんじゃないのか。
うう、どうしよう!
こんなこと佐々木さんに絶対に言えないぞ!
「お前は忙しいやつだな。何をああでもないこうでもないと考えてるんだ」
信号で停まった時、良太を見た京助が呆れ顔で言った。
「へ? 俺そんな、顔に出てました?」
「ほんとわかりやすすぎ」
まあ、よく工藤にも言われるが。
「はあ、ウソがつけない人間なんで」
「今の良太は一番、難しい立場なんやで? 無神経やろ。ちょっとは事情汲んでもの言わんか。工藤さんがもし有罪にでもなったらどないしょとか、直ちゃんが万が一どないかなったらとか、会社がめちゃくちゃになったらとか、ほんま、気が気やないんや」
後ろから良太を心配して千雪が口を挟んだはいいが、むしろリアルな物言いでズバズバ言ってくれるので、余計良太は心臓が騒ぎ出しそうになる。
「無神経はお前だろうが」
京助が反論する。
まったくもってこの二人はある意味同類だと良太は今更ながらに思う。
と、また良太のポケットで携帯が鳴った。
「あ、藤堂さん! ええ、今奥多摩へ向かってるみたいです」
藤堂はマンションに取って返すと、自分の愛車を駆ってハンズフリーにした携帯で、直子の携帯のGPSの位置を時折確認しながら、良太らの車を追っていた。
部屋に帰った時、同居人は仕事場にしているサンルームのある部屋で藤堂の愛犬と一緒に絨毯の上で眠ってしまっていたので、毛布をかけてやってからそっと部屋を出た。
「今、高速に乗ったところだ。最速で追いかけるから、腕自慢の皆さんに直ちゃんのこととにかく頼むよ」
「わかってます。気を付けてください!」
良太も居ても立っても居られない面持ちなのだろう、やや緊張した声がそう言った。
藤堂にしてみれば、あり得ない失策だった。
直子に盗聴器をつけさせたことも、それより店に潜り込ませたこと自体、自分をぶん殴りたいくらい憤懣やるかたない思いが渦を巻く。
藤堂はアクセルを踏んでスピードを上げると、前を走っていた車を三台ほど追い抜いた。
ミラーの中の車が小さくなったところで走行車線に戻る。
「夜の高速を走るのは、焦っている時ばかりだな」
藤堂は一人呟いた。
一方、先に直子と男たちを乗せた車を追っていた啓から辻に連絡が入り、山道をしばらく行ったところにある小さな別荘に着いたことを知らせてきた。
「石尾不動産か、石尾の持ち物やな」
千雪が言った。
千雪はネットでググり、そのあたりの画像でその建物を特定した。
「ええか、極力知られんようにせい。俺らが行くまで何かなければ動くな」
三人が中に入ったという啓に、辻は言った。
「こっちも、加藤から、盗聴した音声」
千雪はスピーカーにして再生した。
『ちょっとヒロ! 何で彼女までつれてったのよ!』
ややあってまた女の声がした。
『え………まさかさとみみたいなことしないわよね?!……………わかったわよ!』
音声はそこで切れていた。
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