「石尾の始末がまだ残っていますからね。石尾が関連しているとなるとまずいことになるので、石尾の方はこちらでやります。が、くれぐれも、やつらを警察に引き渡すまでは、気を緩めないように」
そう言いおいてすぐ波多野は車を降りてどこかに消えた。
「始末って……何だよ」
どうするかとかさえ、聞くに聞けなかった。
相変わらず得体の知れない男だと、良太は今しがた座っていた座席を睨み付けた。
ややあって木戸を捕まえたと千雪から連絡が入った。
さらに谷川からも直子が無事だったと連絡が入ったので、良太は慌てて山荘へと走った。
しばらくみんな呆けたように、その場に立ち尽くしていた。
「ぼうっと立っとってもなんやし、順番に見張りやって車で休むんがええ思うけど」
辻の提案に、皆がそれぞれ頷いた。
「俺はほとんど何もしてないから、まず俺が」
藤堂が言った。
みんなの緊張が少し緩んだ。
と、それを狙ったように、床に気絶していたはずの出水が素早く立ち上がって、開いている窓へと突進した。
だが、すっと伸びた足に躓いて、後ろ手に縛られているから前のめりに顔から床に倒れた出水は呻き声をあげた。
「ナイス、直ちゃん」
差し出された脚は直子だった。
返す返すも強い、と直子を良太は再確認した。
しばし呆気にとられた周りの男たちは、今度は出水の足も縛り上げてリビングの中へと引き摺って行き、とりあえず窓を閉めた。
「じゃあ、俺は買い出し行ってきます。皆さん腹減ったでしょ」
良太がリビングの窓を開けて出ようとすると、直子が「あたしも行く」と言って玄関に回って良太のあとを追った。
「大丈夫?」
「全然平気」
直子はきっぱりと答えたが、すぐに「あそこにいるのがいやだったの」と付け加えた。
「じゃ、行こ」
直子は良太の腕に寄り添った。
最寄りのコンビニまで車で十分ほどかかったが、あれもこれもとかごに入れている直子を見て、良太はふう、と大きく息をつく。
けどマジ、どうなるかと思った。
いくら直子が強心臓だからといって、たまたま運よく、助かっただけだという気もする。
助からなかったらとかは考えたくはないが、あの男たちは既に二人も人を殺しているのだ。
松下美帆を殺したのは田口だが、とにかく何が起きても不思議ではなかったのだ。
一番、気をもんだのは藤堂だろう。
「藤堂ちゃんに謝らなくちゃ」
車の中で直子が言った。
「良太ちゃんにも、みんなにも、心配かけてごめんなさい」
「うん。ものすごく心配した。結果、直ちゃんのお陰でってことにはなったけどさ」
出来る限り優しい言葉で良太は言った。
「ほんとにゴメンナサイ」
直子はもう一度謝った。
「俺らもだけど、谷川さんとか、工藤とか、おっさんら、もろ心臓にくるから、これきりにして」
ちょっと柔らかい言葉で良太は直子を窘める。
「はい!」
元気よく直子は返事をする。
「なんか、千雪さんのお友達って、すごいタフそうな人ばっかだね」
「だよね~。今回俺なんか出てってもへなちょこで、足手まといだからさ、みんな腕に自信ありの猛者ばっか。辻さんて千雪さんの高校の同級生らしいけど、その辻さんの友達の啓さん、将太さん、淳史さんて、ハマの元ヤンらしいよ」
「やっぱ、なんか喧嘩慣れしてる感じだったよね。雰囲気も強面だしさ」
「あーあ、俺もなんか武道とかやっとけばよかった」
今更ながらに良太は思う。
「いいのよ、良太ちゃんは野球一直線なんだから。あ、でも、谷川さんも凄かったよ」
少しいつもの調子を取り戻してきた直子は、谷川が出水をあっという間に倒した時の様子を説明した。
「ああ、やっぱガチで刑事だったんだ、谷川さん。訓練とか練習じゃなくて、実地でやってましたって感じだよな」
「何だっけ、身内の方がやっちゃんと結婚したから刑事を辞めたって聞いたけど、もったいないね」
「まあ、お陰でうちに来てくれたんだから、うちとしては有難いけどね。今回なんか特に」
谷川のことを割と自分が信用しきれていなかったのだと思ったのは、今回工藤のことがあったからだ。
最初青山プロダクションに入った時も、給料がいいからという理由で入ったものの、身内が下っ端ヤクザと結婚したばかりに、誇りを持っていた刑事という仕事を辞めざるを得なかったことで、工藤をヤクザだと嘲ってさえいた。
そんな谷川だから、工藤が逮捕されたことを知ったら、それみたことかと会社を辞めてしまうかもしれないとさえ思ったのだ。
だが、実際は工藤のために自ら動いてくれて、挙句に真犯人を捕まえてくれた。
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