良太は未だに工藤に濡れ衣を着せたやつらのことを考えると腸が煮えくり返る思いだが、千雪やみんなのお陰でこうして普通にそこにいる工藤を見ると、帰ってきたんだ、と再認識する。
よかった。
ほんとに。
しかしまた工藤を犯人扱いした警察の態度を思い出すと、良太はまた怒りがふつふつと沸いてくるのだ。
申し訳ありませんでしたくらい、しっかり言ったらどうだよ!
実際、工藤を見送って頭を下げたのは、捜査一課の中で工藤を早々と起訴するのに異議を唱えた二人、渋谷と橋本だけだった。
「何をイラついてるんだ?」
警察の対応を思い出して、フォークとナイフを握りしめて眉を顰めている良太に気づいて工藤が言った。
「だって、あの警察のやつら! 申し訳ありませんって謝罪したの、渋谷さんと橋本さんだけだったんだ。ふざけるなって!」
工藤はフンと鼻で笑った。
「警察なんざそんなもんだ」
「千雪さんがボロクソに警察を罵倒してたの、ホント全く同意だ!」
思わず良太は肉にフォークを思い切り突き立てた。
「あいつも昔、容疑者にされて事情聴取されたからな。しかもその時のバカ面の刑事がよく調べもしないで頭ごなしだった」
それを聞いて良太は、あれ、と思う。
「その時のこと知ってるんだ?」
問われて工藤は口が滑ったことに気づいた。
その時千雪のアリバイを証明したのが工藤で、アリバイというのが軽井沢に千雪を連れて行ったからだった。
「京助と俺がたまたま事件に関わっていて、千雪のアリバイを証明したからな」
工藤はニヤリと笑う。
言葉上ではウソはない。
千雪のアリバイを証明したのは工藤だけだったのではあるが。
「フーン。その時容疑者扱いしたの、渋谷さんだったから、千雪さん、渋谷さんに対してきっついんだ?」
「まあ、渋谷は当時まだ駆け出しだったからな。だが、それでもその事件の真犯人が知り合いの刑事だったことを突き止めたんだ」
「ええ? 刑事が犯人? それもう終わってますよね。ってか何で、千雪さんが犯人にされちゃったんですか?」
「警察が無能だったからだろ」
正直、工藤はこの話題はもうこれくらいにしたかった。
藪をつついて蛇を出しかねないからだ。
「佐々木さんとこの直子さんまで巻き込んだって?」
いきなり言われて、うっと良太は食べていた肉を喉に詰まらせそうになった。
「それ、佐々木さんには言わないでくださいよ。直ちゃん、たまたま会社に来てあら捜ししてった刑事見て許せないって、藤堂さんも巻き込んで、『ベア』にアンダーカバー、自分でも反省してるって」
良太はくれぐれもと念を押した。
「ったく、藤堂のやつ、何やってたんだ」
工藤は苦々し気に言い放った。
「いや、藤堂さんもまさか、あいつらが直ちゃんを連れ去るとか思わなくて、すごく責任感じてた」
「彼女に何かあったら責任感じるどころじゃないだろう、まったく」
さらに渋い表情で工藤はグラスを取った。
「そうだけど。藤堂さんが悪いわけじゃないし、直ちゃんがとりあえずは佐々木さんに心痛を与えたくないから今は言わないことにするって」
良太は赤ワインを飲むと、タリアータをせっせと口に運ぶ。
「わざわざ佐々木さんに報告すべきことでもないが、直子さんには一度カウンセリング受けさせた方がいいだろう。本人が気が付かないところで精神的にダメージを受けていることもある」
さすがにその言葉は良太にもジワリと重かった。
「うん、わかった」
二本目のワインを開けて工藤のグラスに注ぎながら、いつになく工藤が話をしてくれるのが、良太は嬉しかった。
一週間や二週間、工藤が会社に戻ってこないことは今までにもいくらもあったのだが、その間言葉も交わせなかったなんてことはなかった。
良太にとっては、工藤がいなかった時間はひどく長く感じられた。
工藤の声を聞いているうちに目頭が熱くなって、そんなつもりもないのに良太の目尻から涙がポロリとこぼれて落ちた。
工藤ははあと息をついた。
「お前はバカか」
良太は慌てて涙を拭う。
「どうせバカだよ、チクショ……」
良太があれこれと気をもんでいるだろうことはわかっていた。
工藤の方は、案外規則正しい食事と休息にすらなったせいか、身体も調子がいい状態で出てきたというのに、案の定、迎えに来た良太は見た目にも痩せて、睡眠不足の顔をして、目を合わせると一瞬泣きそうに笑った。
気を張って、仕事も滞りなく進めていた上に、やるなと言ってはいそうですかと聞くような良太ではないことはわかっていたが、千雪らと事件のあらさがしまでしていた。
食事もあらかた終わり、ワインが空になったので、酒を取りに立った工藤は、ぶすっつらでワイングラスを握りしめている良太を仰向かせてキスした。
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