秋の陽2

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 この会社には色々な人がいるが、この鈴木さんを採用したことは、工藤にしては非常にポイントが高かったのではと良太は思う。
 品がいいだけではない、育ちがいいというのか、どんな人間にも分け隔てをしない。
 パソコンのアプリも懸命に勉強して、今やエクセルの達人という頑張り屋さんはそのまま鈴木さんに返したい。
 言葉遣いは丁寧だし、欲がない、優しい、何より、滅多なことでは動じない。
 何しろあの工藤に、小言と思われないような口調で小言を言うし、工藤も鈴木さんには頭が上がらないようで、言われると大抵素直に従う。
 それだけでもすごいと良太は感心する。
 そんな人とこの会社で出会ったことも、縁てやつなのかな。
「こんにちは~」
 鈴木さんと良太がお茶を飲みながら昔のことなんかを話していると、オフィスのドアを開けて美人が一人入ってきた。
「万里子さん、いらっしゃい」
 鈴木さんが立ち上がった。
 良太も会うのは久しぶりだ。
 小野万里子はいわばこの青山プロダクション所属俳優第一号といってもいいだろう、紆余曲折あって、大御所俳優の山内ひとみの口利きで事務所を開いたばかりの工藤に紹介された。
 当時工藤は制作以外に手を広げるつもりはなかったのだが、元カノで今や悪友であるひとみにごり押しされて、万里子を引き受けたのだ。
 前の事務所の社長と泥沼不倫で事務所を辞めた万里子は、SNSやマスコミに叩かれて一時仕事も干され、まだ鈴木さんが入る前だったので、受付の電話さえ平造が取っていた頃のオフィスで、事務所員のように電話番などをしていたりした。
 工藤がまだキー局のプロデューサーだった頃、万里子を起用したこともあり、知らない間柄ではなかったが、会社が船出したばかりでスポンサーや制作関係者の間を駆けずり回った上に万里子のマネジメントまでと、工藤はそれこそ今よりもっと大車輪のように動いていた。
 やがて工藤の大学の同期であり会社の顧問弁護士でもある小田の紹介で入社した菊池が万里子のマネジメントを引き受け、さらに同じ頃鈴木さんが入ってくれたため、平造のオフィス業務は終了し、管理をしている工藤の別荘がある軽井沢に帰った。
 その後局時代の悪友下柳の勧めでさらに志村義人を事務所で預かることになった。
 ただし、志村と同じ劇団にいた小杉が志村のマネジメントを引き受けるということで同時に入社したので、工藤の負担がさほど増えたわけではないが、制作関係が忙しくなり、工藤は飽和状態だった。
 その頃の万里子は徐々に仕事も増え、順調に人気も取り戻し始めていた。
 あまりに忙しそうな工藤を見ていた万里子は、個人事務所の設立を提案した。
 二人は話し合い、今後も仕事で協力していくことを前提にマネージャーの菊池とともに万里子は独立し、工藤の手元を離れた。
 それから間もなく工藤が小林千雪の小説『花のふる日は』を映画化することになり、志村と万里子の出演が決まった。
 以来万里子は主に映画を中心に活躍してきた。
 今年も話題作に出演していたはずだ。
「さっきクランクアップだったんだ。これ、よかったらここに飾って」
 万里子は抱えていた大きな花束を鈴木さんに渡した。
「あらまあ、ステキだこと!」
「撮影、終わったんですか? お疲れ様です」
 良太も立ち上がって歓迎した。
「ここのプリン、美味しいのよ」
 万里子は手に提げていたパティシェリーの紙袋を良太に差し出した。
「うわ、ありがとうございます万里子さん! 今お茶いれます」
 鈴木さんは新しい花瓶をキッチンの棚から出して、万里子から受け取った花を鼻歌混じりで活けて大テーブルに飾った。
「珈琲入りましたよ」
 良太は珈琲を入れて早速プリンと一緒にテーブルに置いた。

 


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