「わしは、上の部屋を片付けて、しばらくおりますんで、いつでも呼んでください」
平造は七階にある工藤の部屋へと向かった。
千雪と京助も何やら話し込んでいたが、また連絡を入れると言い、オフィスを出て行った。
良太は今のうちにやっておくことはやっておこうとキーボードを叩いていたが、帰ったと思った千雪がまた戻ってきた。
「どうかしましたか?」
傍に立った千雪を良太は振り仰いだ。
「あんな、皆には言うてないが、もう一つの可能性があるやもしれん」
良太は千雪を凝視した。
「わかってるやろ? 良太も」
良太はこくりと頷いた。
「表面上はただの殺人事件やけど、もしかして裏に何かあるかもしれん。いつか、俺ら三人が襲われた時、まるで何とかマンみたく現れてやつらを蹴散らして消えたやつ、あの人、おそらく工藤さんの影のボディガードやないかと。アッチ関係のな」
良太はそれに対してはただ千雪の言葉を聞いていた。
「あの時、やつら俺を工藤さんの女と勘違いしたみたいやけど、それまだ有効ならそう思わせとき。女とか不本意やけど、この際しゃあない」
「千雪さん、でも……」
「ええか、さっき工藤さんがお前に連絡せずに俺に連絡してきたんは俺がこういう事件に慣れとるとかやない。ええか、お前が絶対やったらあかんことは、お前が工藤さんにとって弱点やて知れることや」
良太は驚いた。
いつぞや、Tと呼ばれる男、波多野にもそう釘を刺されたのだ。
「万が一お前を盾にされたら、工藤さんは身動きがとれんようになる」
良太は背筋を冷たいものが通って行ったかのような震えを感じた。
「ひょっとしたら、あの人ももう既に動いてるか知れん。とにかく、あっちに関しては良太、こっちから何かしようとか思わんこっちゃ」
「………わかりました」
千雪は良太に念を押すと、またそそくさとオフィスを出て行った。
そのことを言うためにわざわざ千雪は戻ってきたのだ。
千雪は波多野については知らないようだが、波多野の立ち位置は千雪の推測通りだろう。
実は仕事を隠れ蓑に、波多野にコンタクトを取ろうと、良太は密かに考えていた。
それを千雪はとっくに懸念していたらしい。
CM制作のことでとか何とか、理由をでっちあげて、アポイントを取ればと。
老舗の電機メーカー『MEC電機』広報部長、それが波多野の表の肩書だ。
今考えると、この肩書も工藤と顔を合わせても何ら不思議のないだろう相手として用意したのではないか。
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