幻月16

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 小笠原のCF撮影の立ち会いで、一度仕事上でも良太は波多野と顔を合わせたことがあった。
 だが、千雪の言うように、今こちらから波多野に近づくのは双方にとってまずいことになりかねない。
 特にこんな時だからこそ。
 確かにもし裏であっちの輩が関係しているとしたら、とっくに波多野は動いているかもしれない。
 それに、あちらの関係でなくても、波多野は動くような気がする。
 とにかく明日。
 工藤に会いに行く。
 工藤の代わりに動くとなると、京都も行かなければならない。
 今、その移動の時間さえも惜しい気がする。 
 良太は前にも増して早いキータッチで、資料作成を急いだ。

  

 絶対会うと、良太が意気込んでいたにも拘わらずことはそう簡単ではなく、翌日、小田に確認したところ、今はまだ弁護士以外接見できないと言われてしまった。
 実際よく卒業できたというくらいな良太は、そんなこともあったかもしか法律のことを覚えていない。
 俺の頭はやっぱ空っぽだ。
「逮捕されて間もないし、工藤が容疑を否認している限り、接見は難しいよ」
 良太は千雪ではないが、警察に対してコノヤロウと罵った。
 日本のドラマなんかでは正義の味方のように扱われていることが多い警察だが、今初めて警察こそが悪じゃないかと思ってしまった。
 千雪がこき下ろしていた心情がよくわかる。
 良太はとりあえず自分がしなくてはならないことをした。
 社員に連絡を取ったところ、全員が集まってくれた。
 鈴木さんをはじめ、小笠原と真中、志村、小杉、奈々、谷川は撮影が一週間後に京都で再開されるがそれまではこちらで各々仕事をこなしていた。
 それに秋山とアスカ、それに平造、これが全社員とタレントである。
 良太は慎重に説明をした。
 工藤が殺人事件で逮捕されたこと、本人は否認しており、薬を盛られたらしくはめられたのではないかということ、小田が接見に行っていること。
 皆は一様に神妙な顔でじっとそれを聞いていた。
 もしかすると、社員の中には、特に元刑事の谷川などは、工藤を信用できずに仕事を辞めると言い出すかもしれない、良太はそういったことも覚悟の上で端的に話をした。
「フン、そりゃ、警察は完全に工藤をクロとして立件するつもり満々じゃないのか」
 そんなことを言ったのは谷川だ。
「俺も、実際社長と仕事をしてみなければ、クロで押し通しただろうが。とにかく、今は俺、できる限り昔の知り合いに当たってみる。とにかく、薬を盛ってまで社長を陥れようとしたのが誰か、真犯人でも突き止めない限り、かなり難しいが、警察がクロで押すんなら、こっちはとことんシロってことで、探ってみようじゃないか」
 やはり、と思った良太をいい意味で裏切って、谷川は頼もしい発言をしてくれた。

 


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