「小田さんの方から、今の仕事の状況と同時にMEC電機のCMが入ったことを、工藤さんに伝えるように言ってください」
おそらくそれで工藤は、波多野が動いていることを知るわけか。
「わかりました」
良太は神妙な顔で言った。
「ではプラグインの藤堂さんがいらっしゃるまで、しばらくお待ちください」
声の抑揚を変えもせず、波多野はそう言いおいて部屋を出て行った。
窓の外にはよく晴れた秋空が広がっていた。
良太は窓際に立って街を見下ろした。
まだまだ残暑は続くだろうが、やはり夏は確実に過ぎつつある。
蒸し暑い京都の街を工藤と歩いたのはついこの間なのに。
また、工藤とロケに行ってああでもないこうでもないと言葉をかわせるようになるんだろうか。
いや、工藤がちゃんと仕事に戻れるんなら、俺がそこにいなくたってかまやしないんだ。
俺がいなくなることで、工藤が戻れるんなら。
工藤が帰るまではきっちり会社を守ってみせるさ
けどさ。
バカなことは考えなくていいって、じゃ、俺、どうしたらいいんだよ。
やがてプラグインの藤堂が現れ、また波多野を交えて仕事の話になった。
冷蔵、冷凍ともにニーズに合わせたいくつかの引き出しが用意された、料理にアクティブな冷蔵庫、というのがコンセプトだ。
父と母と姉弟の一般的な家庭のキッチンに便利で誰もが使いやすい大型冷蔵庫を置いて、大学生という設定の奈々を中心に四人それぞれの使いやすさを表現していく。
仕事となれば良太も工藤のことはとりあえず置いて、藤堂とともに意見を提示していく。
奈々の持つ雰囲気やイメージを引き出して商品のセールスポイントに近づけて表現する。
広報部でも奈々の情報をいろいろ集めてよく研究されており、打ち合わせはスムースに進んだ。
「では、よろしくお願いいたします」
クリエイターは藤堂から佐々木周平に打診してあるということで、波多野の方も異存はないようだった。
「じゃ、また連絡するよ」
「はい、よろしくお願いします」
駐車場で挨拶を交わし、良太は自分の車へ向かおうとした。
「良太ちゃん」
「あのさ、差し出がましいようだけど、何か問題抱えてるだろ? 俺でよかったら聞くからさ、いつでも」
藤堂がエレベーターの中で何か言いたそうな顔をしていたのを良太は思い出した。
きっと俺、難しい顔してたんだな。
「ありがとうございます。いつものごとく仕事で手一杯で、じゃ、失礼します」
良太はにっこり笑ったつもりだったが、藤堂は頷いたものの納得できていない顔をしていた。
次は工藤の仕事の打ち合わせだった。
工藤が手が離せず、自分が行くことを伝えてあった。
いつぞや良太も一緒に同行し、紹介は住んでいる相手なのがまだ救いだった。
下手なことはできない。
下手なことはいえない。
工藤が戻るまで、何とか、仕事をつながないと。
波多野が言っていた。
起訴されて、工藤の名前が世に出る前に手を打つ必要があると。
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