幻月28

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 麻布警察署の留置所でまた浅い眠りのまま朝を迎えた工藤は接見に来た小田を見て苦笑した。
「毎日ご苦労なことだな」
「他人事のように言うな」
 小田は生真面目な顔で年季の入った鞄から手帳を取り出した。
「皆がお前のために動いている。しばらくの我慢だ。会社の方は問題なく動いているしな」
 眉を顰めてそう言いながら小田は手帳を開いてページをくった。
「小田」
「何だ」
 工藤に呼ばれて小田は顔を上げた。
「万が一の時は、会社は良太に任せる。お前からそう言ってやってくれ。秋山には良太をバックアップしてくれと」
「何を言い出すんだ。お前らしくもない」
 参っているとは思えないが、何かを決意しているようだと小田は工藤を見た。
「谷川くんも調査に協力してくれている」
「そうか」
「そうだ、良太くんからお前に伝えるように言われていたんだ。仕事の話だ。フジタ自動車の打ち合わせと、MEC電機から奈々ちゃんをCMに使いたいということで、プラグインの藤堂さんと一緒に打ち合わせをしたそうだ」
 手帳を見ながら小田は良太から言われたように工藤に伝えた。
 すると工藤は小田をしばし見つめたあと、少し目を眇めて視線を外した。
 なるほど、良太に連絡を取ってきたか。
 工藤は波多野の無表情な顔を頭に思い浮かべた。
 あの男が動いていたか。
 ということはやはり事件の裏でやつらが絡んでいたということか。
 下手なことにならなければいいが。
 それより良太だ。
 あのバカ、また向こう見ずなことをしなければいいが。
「小田、良太に言っておいてくれ。仕事のことだけ考えて向こう見ずなことはするなってな」
「ああ、それは俺も危惧している。言っておく」
 接見を終えた小田は、最後の工藤の顔が気になった。
 異様にクールダウンした気がする。
「しかし、万が一などふざけるなって」
 車のエンジンをかけながら、普段温厚な小田がイラついてハンドルを拳で小突いた。
 二四六に入った時、ハンズフリーにしている携帯が鳴った。
「先生、男の素性がわかりました」
 事務所のパラリーガル、遠野だ。
「わかった、すぐ帰る」
 オフィスに戻ると遠野と司法書士の安井が小田を待ち構えていた。
「どうも、お邪魔してます」
 谷川だった。
「谷川さんが探し出してくれたんです」
 勢い込んで言った遠野が、パソコンの画面に男の写真を何枚か並べた。
「昔俺に協力してた情報屋がこっちにいる知り合い経由で男の素性掴んでくれました」
「ありがとうございます」
 礼を言って小田は画面をのぞき込んだ。
「木戸彰、三十五歳、詐欺、暴行、恐喝の前科あり。二度ほど刑務所に入ってます。田口紀佳とは高校の同級生で、近年再会しどうやらここのところは田口のひも状態で田口の部屋に入り浸っているようです。一方友成は金曜日に田口の部屋を訪れています」
 遠野は木戸について説明した。
「今、千雪さんのダチと俺のダチとで木戸と田口の双方に張りついています」
 谷川が言った。
「防犯カメラの方も収穫ありました。ホテル内と周辺のいろんなとこのカメラを片っ端から見せてもらって、見つけました! 男も、女の方も」
 安井はホテルの防犯カメラや周辺のカメラを設置している店などでダウンロードした画像をタブレットに並べた。


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