どう見ても人相がいいとは言えない、ブランド物のスーツが浮いている雰囲気の男は、クソと舌打ちしてまた中に戻っていった。
「………もろ、下っ端ヤクザって感じだな………」
この手の店はバックに反社会的勢力がついていることが多いとはよく聞く話だ。
「あ、あれって確か、出水とかいう……?!」
はたと気が付いた良太は、ポケットから携帯を取り出して、小田が置いていったデータから男の画像を表示した。
「出水博則。元は石尾不動産いう会社の社員や」
いきなり背後から聞いたことのある声がして、振り返った良太は思わず声を上げそうになった。
寸でのところで口を塞がれたものの、目の前にさっきから目にしていた真っ赤なワンピースの女を認めて良太は目を見開いた。
「クラブベアのチーママ、今はママになった清水美咲と付き合うとる。石尾不動産は表向きカタギの会社やけど、社長の石尾健斗はW大出の所謂インテリヤクザいうやっちゃ。島本組系列らしい」
「やっぱり! ってか何ですか、そのコスプレ!」
「うるさいわ! こんなん最初で最後や」
ついニヤついた良太は、パシッと頭をはたかれる。
「ってぇ! 千雪さんてやっぱ乱暴!」
「うっさい! ったくあれだけ、仕事だけやっとき、言うたのに」
「仕事はきっちりやってます! 今日も撮影ありましたし、『からくれないに』」
頭を撫でさすりながら良太は言い返す。
「あそ。ま、お前がおとなしゅう動かずにいるとは思わんかったけどな」
「それより、何してんです? こんなとこで、超地味ないつもとは真逆に派手なコスプレして」
二人は自販機に隠れるようにこそこそ話を続けた。
「手っ取り早く、手りゅう弾投げ込んだったんや」
「しゅ、しゅりゅう……!!!!」
驚いて声を張り上げそうになったのをまた千雪に口を塞がれる。
「アホ、声でかい! 例え、比喩、寓意や。関係者に『お前のしたことを知っている』て、新聞切り抜いた文字張り付けて、封筒ポストに放り込んだんや」
「封筒………また、ベタな………」
「眼鏡とかベタな変装しよるお前に言われたかない」
うっと良太は言葉に詰まる。
どうせ変装とかできないですよ。
まあでも、デジタルな世の中だからこそ、そんなベタな脅迫状もらったら、ちょっとぎょっとするかも。
「ですよね~、ガチな変装っすよね~今夜の千雪さん。で、そのナリで乗り込むつもりだったんですか?」
「アホいいな。こんなバカでかい女が、店強襲してどないする?」
「確かに。俺さっき、美人だけどすんげーでかいって思いましたもん」
「さすがに男やのうて女やろ、言われ続けた俺でも、ほんまに女装なんかしたらこないなるんや」
「まあ、でもほら、モデルとかでかい人多いし」
「慰めにもならん。さっきの男出てきてキョロキョロしとったやろ?」
「あ、出水とかってチンピラ風なやつ!」
「真っ赤なワンピースの女が店の外でうろついてるて、誰かが知らせたんやないか?」
なるほど、と良太は合点する。
「陽動作戦ですか。そういえばさっきの男、結構必死な形相してたかも」
やはりつつけば何か出てくるということか。
「にしても、今夜この界隈、青山プロ関連の人間の人口密度高いな」
「は?」
良太はまともに千雪の化粧した顔を見つめた。
赤いルージュといい、マスカラといい、派手だがものすごい美女ではある。
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