どうも前田には実際よりかなり若いと思われているのかもしれない。
この店では特に工藤はあまりしゃべらない。
良太も黙ってマティーニを飲む、つもりなのだが、酔ってくるとつい良太の口は滑らかになる。
工藤はそんな良太に苦笑しながら答えている。
今夜はカランという氷の音が響くほど、店内は静かだ。
音楽もかなり静かに流れているし、一人できている客が多く、寡黙だ。
女性もいるのだが、やはり一人で、この店の時間を味わっているかのようだ。
二杯ほど飲んで店を出ると会社の七階に上がり、工藤の部屋に行った。
シャワーを浴びている時から工藤が触れてきて、がくがくする身体のまま良太はベッドに連れていかれた。
貪り合うように抱き合ったあと、工藤に擦り寄るようにして良太は眠った。
翌朝コーヒーの香りで良太は目が覚めた。
珍しく工藤が入れたコーヒーを飲んでから、良太が自分の冷蔵庫にあったサンドイッチを持って来て二人で食べ、ゆっくりとした夏の朝を過ごした。
工藤は身支度をすると、またエロいキスを落としてから九時過ぎには部屋を出た。
良太はそれから慌てて自分の部屋に戻り、そそくさと着替えてオフィスに降りて行った。
いつもと同じ一日が始まるはずだった。
ドラマの打ち合わせが終わった後、工藤はこのドラマに工藤を誘った局時代の元先輩プロデューサーの紺野重則と彼の行きつけの小料理屋で少し飲んだ。
五時半に店に入って約二時間ほど、互いの近況や仕事のことなどを話したが、紺野の真面目で何ごとにも全力で向かうような姿勢は、当時と変わらなかった。
「お前が辞めて会社を興してもう十何年?」
「十年ちょいです」
互いに似たようなワーカホリックで仕事くらいでなければ会うこともなかった二人は、鮭かまの塩焼きや串盛で酒を酌み交わす。
「だろう? いや、俺も年を取ったよ」
「今が一番調子に乗っているんじゃないですか。昨年のドラマも賞を取られたし」
「俺は何もしてないよ。若手の脚本家がね、山岡瑞穂、知ってるだろ、彼女がいい味出してくれてね、俳優陣とも相性が良くて」
「山岡さん、飛ぶ鳥を落とす勢いですね」
「そうだな。俺のことより、お前の仕事ぶり、すごいじゃないか。ミステリーのシリーズものは映画でもドラマでもなかなか評判がいい。お前のところの中川アスカや志村義人もちょくちょくノミネートされているし、お前もそろそろ賞を狙ってもいいだろう」
工藤は苦笑する。
「俳優陣には活躍を期待してますが、俺はそういうものにはあまり」
「お前はほんと欲がなさすぎるよ。それで、どうなんだ? プライベートの方は」
「プライベートですか」
工藤は言葉に詰まり、酒を飲む。
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