藤堂がこういう店に慣れているのは、散々同僚の河崎に付き合わされたからだが、無論、上質なオーダーメイドのスーツが板についているところといい、一流のホステスならその雰囲気からも藤堂が富裕層に属していることは嗅ぎつけるだろう。
しばらく女の子には常に慕われ慣れているオーラを十分に発揮して、そのうちママの美咲までを笑わせていた藤堂だが、そろそろかな、と席を立った。
「ちょっと酔っちゃったかな。お手洗い」
「あら、大丈夫ですか?」
美咲もこれはいい上客が転がり込んできたとばかり、ちょっとふらついてみせた藤堂に声をかける。
「大丈夫ですよ」
藤堂はトイレに立つ振りをして、事務室を探した。
トイレとは逆の方向へ歩いていくと、スタッフオンリーの文字が書かれたドアがあった。
ドアを開くと、廊下になっていて、事務室があった。
人がいないことを確認してからドアの蝶番の上に預かった盗聴器をテープでくっつけた。
と部屋から人が出てくる気配がしたので慌てて戻ろうとしたが、店の方からも人がやってくる。
咄嗟に思い切り転んで見せて、酔っぱらった態で壁に寄り掛かった。
「おい! 何してる!」
例の出水という男が怒鳴った。
「……と、トイレ……、ちょおっと酔っちゃったみたいで」
立ち上がろうとして立ち上がれないといった演技を藤堂はしてみせる。
「ったくしゃあねぇなあ、お客さん、とにかく立って」
フロアスタッフの一人らしい若い男が藤堂の腕を担ぎ上げた。
トイレまで藤堂を連れて行くと、「大丈夫すか?」と聞いてきたが何も疑われることもなかったようだ。
ふう、とため息をついて、トイレを出て席に戻ると藤堂は店内を見回した。
直子がいない。
冷や汗というものを、藤堂はこの時ほど感じたことはなかった。
「あれ? なおみちゃんは?」
「すぐに戻ると思いますわ」
穂香は笑ったが、おそらく直子が盗聴器をどこかに設置するために席を立ったのだろうと思った。
しかし、何か嫌な胸騒ぎがした。
その頃直子は控室に行ってから誰もいないことを確認すると、自分のロッカーからバッグを取り出し、ミニスカートを捲くし上げて、中につけている割とがっちりタイプのゴシックガーターハーネスベルトに携帯を忍ばせた。
携帯が落ちないように少し細工をしておいたのだ。
そして、耳にはマイク内蔵のワイヤレスイヤホンを入れた。
簡単にスカートの下の携帯を操作できる。
バッグに入っているのは買ったばかりの新しい携帯である。
いざという時のために、念には念を入れてこの店にやってきていた。
バーカウンターを通った時に、藤堂から渡された盗聴器はカウンターの裏側につけてきた。
準備は万端、と控室を出たところで、男たち二人が奥で何やらひそひそと話しているのに気づいた。
「……お前のところにも来たのか」
「気味が悪いぜ。俺のやったことを知ってるとか、差出人が赤いドレスとか書きやがって、チクショ!」
「さっき、店の外を赤いドレスの女が歩いてるって誰かが言ってやがって、俺が見に行くといねぇ。そしたらまた、店の子が赤いドレスの女がうろついてたとかって、行ってみるといねぇ。人をおちょくりやがって!」
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