まさか、そんなことになろうとは自分でも思ってもみなかった。
いくらハロウィンの夜だからって、あり得ないって――――――――――――――。
ACT 1
瞼に走った光の帯が眩しくて、佐々木は寝返りをうった。
朝か………何時やろ……
気分は悪くないが、身体が重い。
やっぱ夕べちょっと飲みすぎたかも………。
できればもう少し眠りたいと枕に頬をうずめた佐々木は、ふと額に暖かいものを感じて目を開けたのだが、超絶な違和感に一瞬身体が凍りつく。
………何の…冗談や?
その状況を、佐々木はしばし理解することができなかった。
目の前に横たわる男の腕枕で、まるで守られるように自分が眠っていたという。
あきらかに自分の部屋ではない。
サイドテーブルに置かれた無機質な電話、部屋の広さや調度類からして、おそらくホテルのスイートだ。
次には頭より先に身体の方が動いていた。
男の顔をまともに見る勇気はない。
男を起こさないように静かにベッドを滑り降りた佐々木は、辺りに散らばった自分の服をかき集めると、昨夜クライアントに会うためにと選んだコーデュロイのパンツを履き、シャツを着て上着を羽織る。
転がっていた黒のトリッカーズもやっと探しだしたが、慌てているので履くのにももたついた。
厚い絨毯が足音を消してくれるのが有難かった。
せや、バッグ! どこや?!
焦りながらバッグをリビングのソファで見つけた。
ドアを閉める時、男が起き出したような気配を感じて振り返りそうになるのを留める。
エレベーターホールの前で鏡を見て、佐々木は髪を結わえていたゴムがないことに気づいたが、よもやそんなもののために部屋に戻ることもできず、とにかくロビー階へと降りた。
支払いも男に任せた形になったことに思い当たるが、スイートなんぞに泊まるような男なら任せてしまえと、ホテルを出てタクシーに乗り、運転手に一番町を告げた。
一体全体どうしてこんなことになったのか。
混乱する頭がようやくまともになったのは、佐々木の住まいである自宅の離れに戻り、ベッドに横たわってしばらくしてからだった。
確か夕べ、ホテルのバーで会って話したことは覚えている。
内容がいまひとつ思い出せないのは、いつになく酔っていたからだ。
ましてや見ず知らずの誰かと一夜を共にするなど、どこぞで耳にしたことがある話だが、あくまでもどこぞの話で、常日頃の佐々木からすればあり得ないことだ。
しかも男と。
佐々木周平、一月に誕生日が来ると三十三歳、バツイチ。
なかなかに男らしげな名前からは想像がつかないほど眉目秀麗な容姿の持ち主であることは、彼が生業とするクリエイターとして身を置いている広告業界でも知られている。
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