「ちょ、ちょっと春日さん、またそうやって、たったか一人で決めるし。営業なんか、そこまで面倒見る余裕ないよって。ナオちゃん、一緒に来てくれるだけで十分……」
その時、ドアがノックされて、たった今話題に上がった当の池山直子が顔を覗かせた。
「ああ、やっぱりここにいた。佐々木ちゃん、それであたし、いつからオフィス行けばいい? いつでも準備OKだよ?」
オフィスササキに出向させるのは、可愛いゆるキャラ系で佐々木や浩輔と世界が同じ池山直子以外にないと、佐々木を独立させようと決めた時点で春日は即断している。
「おう、すぐにでもいいぞ、お前に任せる」
春日は頷きながら言った。
「助かるわ、ナオちゃんいてくれるだけでありがたい! そうや、必要なものリストアップして、買うてきてよ」
佐々木も直子がきてくれるのならと重い腰をあげて会社のデスクを整理する気になったのだが、八年という年月の間にゴミにしかならないものは山ほど溜まっていて、それを捨てるだけでも一日がかりだった。
「はぁい。じゃあ、早速行って、いろいろ準備するねー」
直子は短大を卒業後ジャスト・エージェンシーに入社して五年目、可愛くてゆったりしているが、礼儀作法も祖母に躾けられたという直子は、よく気がつく明るくて常にポジティブな元気印の女の子だ。
結構きついこともサラリと口にする表裏のない性格だが、言葉遣いがゆるいので当たりは悪くないため、割と誰にも好かれるタイプである。
ただし、本当に怒らせると怖いという噂もある。
結構モテそうなのに、入社してからつき合っていた彼氏と別れて以来ずっとそういう相手はいないようだ。
「なあ、ナオなんかどうよ?」
直子が部屋から出て行くと、春日がボソッと口にした。
「え? 何が?」
「何がじゃねぇよ。可愛い子好きなお前のタイプど真ん中だろーが、ナオなんか」
「え………………」
佐々木は少しの間、思考が混乱して次の句が告げなかった。
「春日さん、そういう意味でナオちゃんをこっちに?」
「今、ふと思ったのよ。お前ら、ゆるキャラ系で息は合ってんだし、浩輔はいないしだな」
「可愛い子て、俺のタイプ……やったっけ?」
混乱したのは、突然そんなことを春日に言われて、また昨夜の男を思い出してしまったからだ。
「お前、何、わけわからんことを。トモちゃんといい、浩輔といい、可愛い愛玩系だろうが」
「そう、なんや…………まあ、ナオちゃんはねぇ、俺のこと全くそういう目では見てへんしなぁ。つき合い長ごて、兄妹に近い雰囲気?」
「やっぱなぁ、そうなんだよな。しかしお前ほどの男が、うちのボロ会社なんかにいるから相手も見つからんのだって、お袋さんも心配して」
佐々木は、毎朝仏壇を開けて「周平にええご縁がありますように」と手を合わせる母を思い出してげんなりする。
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