Tea Time29

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 夜七時になる前に、ユウと勝浩はいつものようにゆっくりと散歩から戻ってきた。
 Tシャツにパーカーを羽織っているだけではちょっと寒い夜である。
 大きな月が夜道を明るく照らし出している。
 あの日、ウイーンに発つ幸也を見送った後で、留学ではなくオペラを聴きに行くだけだと聞かされてほっとしたはずなのに、その数日間ですらが長く思ってしまった。
 早く帰ってきてほしい、今度は本当にちゃんと幸也と向き合いたい言葉を交わしたいと切実に思った勝浩だったが、ウイーンに着くなり早速幸也からビデオコールが来た。
 それからここはどこだ、オペラを待ってるところだ、終わったところだと逐一自分入りの画像や動画と共にラインが来る。
 日本時間の夜には必ず電話が入り、まるですぐ近くにいるような錯覚さえ覚えたほどだ。
 お陰で会えない時間が寂しいかもしれないという杞憂は吹っ飛んでしまった。
「あ、こら、待てってば、ユウ」
 部屋に近づくと俄かに走り出したユウに引っ張られて、垣根続きの軽い木戸を押したときだ、青い影が石畳に落ちている。
 勝浩ははっとしてユウのリードを手繰り寄せようとするが、ユウは吠えようともしない。
「よう」
「え………」
 何か言う間もあらばこそ、勝浩はいきなり抱きしめられる。
「幸也…さん?」
「ちゃんと帰ってきたぜ」
「お帰り……なさ……」
 ユウのリードを握り締めたまま、またしても勝浩の言葉は幸也の唇に吸い取られる。
「今夜帰るなんて言わなかった……」
 ようやく離されて、勝浩は大きく息を吸う。
「こないだのお返し。クールなはずの勝っちゃんの涙が目に焼きついちゃって、オペラなんかてんで耳に入らなかった」
 幸也は確かめるように勝浩の頬を指で辿る。
「な…に、バカなこと……」
 祖父に伴ってウイーンからミラノに飛び、正味四日間も相手をしたろうか、大事な実験が待っているなどと理由をでっちあげて早々に戻ってきたのだ。
 その行程ごとに勝浩にはラインに電話と、しばらく口を聞いていなかった分を取り戻すかのように言葉を交わした。
申し訳なかったのは七海にだ。
 幸也を空港で見送ってから携帯に電話をすると、空港内でブラついていた七海は勝浩から事情を聞いて、「何だ~、ほんとかよ~」と喚く。
 どうやら彼自身武人にだまされていたらしい。
 勝浩が取材に出ていた武人を捕まえたのはその日の夜のことだ。
「ハハハ、やっぱナナちゃんも信じちゃった? いやあ、ほら、まず敵をだますにはまず味方からってあるじゃん? ちょとちゃうか~」
 武人は一人大受けしている。
「七海はあんまし人を疑うってことしないヤツなんだから、ちゃんと謝ってくださいよ!」
「ま、いいじゃん、その荒療治のおかげで勝っちゃん、幸也のやつと仲直りできたんだろ?」
 そうともいえるとは思ったが、勝浩はそれを口にしなかった。

 


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