ACT 2
午前一時を回った頃。
ゼミ合宿で発表に使うレジュメをやっと作り終え、勝浩がノートPCをパタンと閉じると、散歩を待ちかねたユウがパタパタと尻尾を振りながらクウンと鳴いた。
「お待たせ、ユウ!」
ドアに鍵をかけるや否や、ユウは勝浩を引っ張って小走りにいつもの散歩コースに飛び出していく。
濃紺の空にはくっきりと大きな月が浮かんでいた。
「ユウ、見ろよ、すんごいでかいぞ、月」
きょとんとした顔でユウは勝浩を見上げる。
翌日から軽井沢に出向いて行われるゼミ合宿にはユウの同行も認められたので、勝浩は武人から車を借りることにしたのだが、やはり車は必要だと思い始めたところだ。
それにはバイトも増やさなければ。
そろそろ就職活動なども視野に入れ始めた同級生を横目に卒業後は院に進むことに決めているし、せいぜいバイトで稼がなくてはならない。
編集部で武人にチラッとそんなことを言ったら、編集のアシスタントをしろと言う。
資料集めやら画像整理やら、校正にコピー取りに果ては編集費用の計算まで雑用ばかりだが、慣れたところでの仕事ならありがたいと即決した。
しかも武人は自分のミニを譲ろうかと提案してきた。
「そんな、ミニなんて、せいぜい俺には軽かなんかじゃないと」
「ああ、いいのいいの、軽を買う二分の一でも勝っちゃんならOKだから。俺、ほら、幸也のやつにベンツのワゴン、もらっただろ、ミニ気に入って買ったのにずっとお蔵入りになってるし、勝っちゃんに使ってもらえればさ。業者に売るには惜しいしな」
検見崎が勝浩に負担にならないように言葉を選んでいることはわかるので、勝浩は苦笑する。
「でもミニだと、大型犬乗せるとユウだけでいっぱいって気がするし…」
いかにも実務的なことを考える勝浩に、「それが、いいんじゃん」と武人は笑う。
「ユウと大型犬だけでいいわけ。ちなみに大型犬の名前は幸也っつう………」
ゴニョゴニョと勝浩の耳元で囁く武人を無視して、勝浩は自分のパソコンに向かう。
「よう、アレとその後どないなってんの? ちょっとくらい教えてくれてもいいじゃん、ケチだなあ! 勝っちゃんってばてんでポーカーフェイスだしぃ!」
ポーカーフェイスは長年勝浩のいわば鎧のようなものだ。
弱さにつけこまれたくない一心で、いつの間にか癖になって喜怒哀楽が素直に出てこない。
憎まれ口ならよく叩いていた。
ある上級生に対しては特に。
武人の言う『アレ』こと幸也とは山小屋以来、ちょくちょく会っているし、幸也は電話もしょっちゅうくれる。
先日も大家さんに一緒に食事をと誘われたので、ちょうど電話をくれた幸也を誘ったのだが。
幸也は大家にすっかり気に入られたようすで、大家は「いい先輩がいてよかったね~」としきりと笑って部屋に戻っていったものの、当の幸也とは何となくぎくしゃくしたまま別れた。
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