「ええ、橋爪さんには明日来いって言われてます。あさってはここの当番俺ひとりだし、ちょっと無理かも」
検見崎に聞かれて勝浩はそう答えた。
「んじゃ、明日ね」
賑やかな検見崎が背中を向けたまま、ひらひらと手を振ってクラブハウスを出て行くと、部屋の中はやがて和やかな静けさに包まれた。
かなり憎まれ口をきいているが、勝浩はこの検見崎を嫌っているわけではない。
この会に入ってからお節介なほど世話をやいてくれ、出版社のバイト先まで紹介してくれたこの先輩のことを頼もしく思っている。
どころか、散々からかわれながらも何故か検見崎の傍にいると妙に安心できる、そんな存在なのだ。
ただし、検見崎とよく一緒にいるために、学内で検見崎と自分とがひとくくりにされることが多くなったことは勝浩はあまり面白くない。
何しろ、耳にはピアス、きれいに整えられた髭、当世風なファッションで決めて赤いベンツなんかを乗り回し、既にマスコミの仕事もしているという検見崎は、十二分に有名人なのだ。
女を引っ掛けるくらいしか考えていなさそうに見える検見崎が、ボロ小屋同然のクラブハウスで、楽しそうに犬やら猫やらと一緒になって遊んでいる、というのもまたギャップがあって周りは面白いらしい。
一方、もの静かな秀才型でお坊ちゃま風、何匹もの犬と泥まみれになって駆け回るなんてしそうにない勝浩だが、幼い頃から犬や猫が家にいなかったことはない。
高校時代、いろんな施設などを回って、自分たちでできることを手伝ったり、ちょっとした演劇や小コンサートなどを行ったりというボランティア活動を続けてきた勝浩には、また、捨てられた犬や猫たちを少しでも何とかしてやれないものかという思いもあった。
学内に捨てられていた柴犬を、ユウと名づけて自分の部屋でも飼い始めて一年と半年ほどになる。
実家にももともと飼っていた犬の他に保護猫が数匹いるが、それ以上は面倒を見るにも限界があった。
大学に入ったばかりのとき、勝浩は同じ学部で動物行動学研究室に在籍する二年上の垪和と友人を通じて知り合い、彼女から『動物愛護研究会』の存在を聞いた。
胡散臭く思いながらもドアを叩き、捨てられた犬や猫を保護して世話をしているというのを知って早速入会した。
里親を探すためのホームページ作りとともに、勝浩が同時に提案したのが、犬や猫と一緒に施設を訪問して、希望者を募り、動物たちと接してもらおう、というものだった。
「そうすることで、犬や猫たちも役割を担い、存在感をアピールできる、と思うんです」
初めからうまくいく話ではなかった。
「そんなつもりで入ったんじゃないぜ。ボランティアなんて、性にあわねーよ」
無論、反発する者もいた。
「面白いかもしれないなー、それ」
意外や勝浩の提案に賛成したのが、到底そんな面倒なことに首を突っ込みそうにないと思われていた検見崎だ。
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