「その情報があっという間に科学者の間に広まり、クラークは慌てました。地球の存亡をかけた一大事のもとには一旦は団結したかに思われた各国の思惑はすぐに軍事機密の探り合いへと変貌し、興味は一斉に精密な誘導システムに向いたのです」
「まあ、そんなものが存在したら、みんなで取り合いになるわな」
エミリが大きくデレクの意見にうなずいた。
「そこでクラークは各国の要人、科学者の前で既にプログラムは破棄されたと、そう述べました。プログラムは軍事的な目的には使うべきではないもので、とっくにそれを作った科学者自身が破壊したと」
「ぜってぇ、ウソだ!」
デレクが断言した。
「誰しもそう思ったようで、アメリカがそれを軍事に利用しないはずがないと喧々囂々でしたが、実際クラークはアメリカ空軍をも敵に回し、そのプログラムについてもそれを作ったという少年科学者、当時のプロジェクト内では、その少年のことをDr.Cと呼んでいましたが、Dr.Cについても一切口を閉ざしました」
「それから間もなく、英才教育プロジェクトは火事にあって解散し、Dr.Cのことは名前もどんな少年かも知られることなく彼は隔離されたと聞いています」
ルカがようやく口を挟んだ。
「隔離って伝染病じゃあるまいし」
デレクが笑う。
「いや、そうしなくてはならないくらい、危険な状態にあったと思う。おそらく科学者の中には各国の情報局のエージェントも混じっていたに違いないし、軍まで敵に回したとなると」
ルカは難しい顔で言った。
「火事の原因はDr.Cを狙ったものの所業でした。その際、顔に火傷を負ったDr.ラファエロはNASAを去りました。NASAは彼の警護のために、別の名前と素性を用意しました。今現在、Dr.ラファエロの消息はその生存すらわかっていません。さらに十年ほど前にもDr.Cが拉致されかけるという事件があったらしく、NASAはDr.Cが絡むとことのほかピリピリしています」
しばしの沈黙の後、エミリが画面を切り替えた。
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