残月2

back  next  top  Novels


 そもそもが以前は母校の大学にも新入社員の募集をかけたりしていたものの、面接の最後に、俺の伯父は云々とどすをきかせた声で言い放つため、ほぼ全員が回れ右で帰って行き、万年人手不足に悩まされている青山プロダクションだったのが、ただ一人、出て行かずにめでたく新入社員として残ったのがこの良太だった。
 どれだけ工藤に怒鳴られようが打たれ強く、あまつさえ、怒鳴られてもこそっとニンピニン、なんて呟く度量もあったりする。
 一見やせっぽちでひ弱そうな学生だった良太だが、工藤のみならず、世の中でえらいと思われている誰それだろうが、人気絶頂の誰それであろうが、言う時は言う。
 最近では工藤の怒号の合間を縫うように今回のように、新人の二村にもダメージを与えず、尚且つ工藤に対して禍根を残さないよううまく立ち回って、物事を円滑に進める術を自然と身に着けていた。
「良太ちゃん、何か最近頼もしいですね」
 日比野はこそっと工藤に耳打ちした。
「あの野郎、ナマイキなんだよ」
 苦笑する工藤も、そこのところは十分わかっているのだ。
 俳優をどやしつけるなんぞ、下手をすると、いや充分に、今やパワハラ、コンプライアンスがどうの、そんなこともよくわかっていて、あえて怒鳴り散らす工藤である。
 そんな工藤に猛獣遣いのごとく、文句を言えるのが山内ひとみだが、その言い草もパワハラと思わないでもないことが多かれ少なかれあった。
 大女優と鬼プロデューサーがセットで入っている撮影現場は、皆が戦々恐々というわけだ。
 だがもし、工藤がただ理不尽に怒鳴っているだけであれば誰もついていかないし、質のいいドラマも生まれない。
 怒鳴り声に恐れおののいているだけでなく、何を言われているのかをちゃんと理解できるものだけが上に上がっていけるのだ。
 良太は軽い朝食用のサンドイッチと缶コーヒーを俳優陣やスタッフに配って歩き、二村のところにも持って行った。
「ありがとうございます」
 二人に袋からサンドイッチを出して渡すと、マネージャーの下山という男も二村の後ろでぺこりと頭を下げた。
「そんな頭下げられるほどのものでは」
「いえ、さっき、私がへたっている時、休憩って声かけてくださって………。何度も怒られるし、工藤さんおっかないから、余計へたっちゃって」
 ちょっと涙ぐみながら二村が言った。
 彼女は最近ドラマなどでワキだが雰囲気も可愛いと人気が出て、CMにも顔を出し始めたところだ。
「大丈夫ですよ。次頑張れば。なんかほら、百パーセントなら誰でも頑張ればできるけど、百二十パーセント出そうと思ってそれに近づいた時って、すごく自分でも達成感あるじゃないですか」
 良太はにっこり笑う。
「百二十パーセントですか?」
 キョトンとした顔で二村は聞き返した。

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
いつもありがとうございます